コラム

「エンゲル係数急上昇!」が示す日本経済の意外な弱点

2016年02月02日(火)15時11分

消費税5%では変わらなかったが、8%でエンゲル係数が上昇

 エンゲル係数が急上昇した直接的な原因は、消費税の8%への増税と考えられる。消費が弱いと事業者は簡単には値上げできないため、多くの事業者は、これまで内容量の削減など目に見えない形で値上げを続けてきた。しかし、2014年4月の消費増税をきっかけに名目上の値上げに踏み切った事業者が多く、これが食料品価格を一気に押し上げた。消費税が上がっても、収入が増えたわけではないので、消費者は他の品目を切り詰めることになる。その結果として、エンゲル係数が上昇したと考えられる。

 ちなみに1997年4月に実施された消費税の5%への増税時には、エンゲル係数の目立った上昇は見られなかった。当時はまだ家計に余裕があり、贅沢品への支出も多かったはずである。消費増税に対しては、各品目についてまんべんなく消費を減らすことで対応したものと思われる。今回、消費増税でエンゲル係数が急上昇してしまったのは、日本の家計がそろそろ限界にきていることを示しているのかもしれない。

人件費が削減されているが、投資家に回っているわけではない

 家計の所得が減少しており、これによって消費が弱くなっているという現実は、安倍政権もよく認識しており、これが財界に対する3年連続の賃上げ要請につながっている。だが、家計の所得がなぜ減っているのかという根本的な部分についてはあまり議論されていない。

 当たり前のことかもしれないが、家計の所得が減少しているのは、企業が人件費を削減しているからである。マクロ的に見てもその傾向は顕著であり、日本における労働分配率は、一時、持ち直したことがあったものの、基本的に低下傾向が続いている。労働分配率と対になるのは資本分配率なので、それだけを見ると、企業は人件費を削り、その分を投資家に還元していることになる。

 確かにこうした側面は否定できないが、一方で、日本企業の投資家に対する還元水準は著しく低いことでも知られている。安倍政権が、企業に対して賃上げを要請する一方、ROE(株主資本利益率)の向上も強く求めていることからも、それを伺い知ることができる。日本企業は、労働者に対する還元も、投資家に対する還元も少ないのである。

【参考記事】マイナス金利で日本経済の何が変わるのか

 では、労働分配率の低下で余ったお金はどこに消えてしまったのだろうか。ヒントになりそうなのが、マクロ経済における固定資本減耗である。一般的な労働分配率は、国民所得に対する雇用者報酬の比率が用いられる。だがこれをGDP(国内総生産)全体に対して適用するとまた違った風景が見えてくる。

 労働分配率が低下しているのは同じだが、資本分配率は実は上昇していないのだ。一方で上昇傾向が続いているのが固定資本減耗である。これは企業会計で言えば減価償却に相当するものだが、これは何を意味しているのだろうか。ひとつ考えられるのは、日本における設備投資効率の悪化である。

プロフィール

加谷珪一

評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『お金は「歴史」で儲けなさい』(朝日新聞出版)など著書多数。

ニュース速報

ビジネス

米FRB、緩やかな利上げ理にかなう=イエレン議長

ビジネス

次期米政権、債務増に配慮した財政政策必要=ダラス連

ビジネス

米12月CPIは前年比2.1%上昇 2年半ぶりの大

ビジネス

ドイツ財務省、IMF抜きのギリシャ支援準備との報道

MAGAZINE

特集:トランプ・ワールドの希望なき幕開け

2017-1・24号(1/17発売)

ドナルド・トランプがついに米大統領就任へ──。「異次元の政治家」にできること、できないこと

人気ランキング

  • 1

    スーパー耐性菌の脅威:米国で使える抗生物質がすべて効かない細菌で70代女性が死亡

  • 2

    日本はワースト4位、「経済民主主義指数」が示す格差への処方箋

  • 3

    トランプごときの指示は受けない──EU首脳が誇り高く反論

  • 4

    【ダボス会議】中国が自由経済圏の救世主という不条理

  • 5

    太陽光発電の発電コストが石炭火力発電以下に。ソー…

  • 6

    トランプ大統領就任式ボイコット続出、仕掛け人のジ…

  • 7

    ベーシックインカム、フィンランドが試験導入。国家…

  • 8

    「知能が遺伝する」という事実に、私たちはどう向き…

  • 9

    トランプをセクハラと中傷で提訴 テレビ番組出演の…

  • 10

    アルツハイマー治療薬を使って歯を自然再生、英研究…

  • 1

    オバマ米大統領の退任演説は「異例」だった

  • 2

    トランプ当選初会見でメディアを批判 ツイッターなどSNS大炎上

  • 3

    韓国ユン外交部長官「釜山の少女像は望ましくない」

  • 4

    「南シナ海の人工島封鎖なら、米国は戦争覚悟すべき…

  • 5

    オバマ、バイデン副大統領に最後のサプライズで勲章…

  • 6

    南シナ海の人工島封鎖で米中衝突が現実に?

  • 7

    ダライ・ラマ制裁に苦しむ、モンゴルが切るインドカ…

  • 8

    北朝鮮が国家ぐるみで保険金詐欺、毎年数十億円を稼ぐ

  • 9

    トランプ今度は製薬会社を標的に 薬価引き下げを表明

  • 10

    なぜアメリカの下流老人は日本の老人より幸せなのか

  • 1

    オバマ米大統領の退任演説は「異例」だった

  • 2

    キャリー・フィッシャー死去、でも「2017年にまた会える」

  • 3

    「知能が遺伝する」という事実に、私たちはどう向き合うべきか?

  • 4

    トルコのロシア大使が射殺される。犯人は「アレッポ…

  • 5

    トランプ当選初会見でメディアを批判 ツイッターな…

  • 6

    北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

  • 7

    日本の制裁措置に韓国反発 企画財政省「スワップ協…

  • 8

    韓国ユン外交部長官「釜山の少女像は望ましくない」

  • 9

    安倍首相の真珠湾訪問を中国が非難――「南京が先だろ…

  • 10

    独身男性の「結婚相手は普通の子がいい」は大きな間…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

日本の観光がこれで変わる?
リクルート
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版 臨時増刊

世界がわかる国際情勢入門

絶賛発売中!