コラム

脅せば脅すほど台湾と韓国で「シンパ」が負ける......中国と北朝鮮が「不合理な恫喝」に走る訳

2024年01月31日(水)11時47分
金正恩

金正恩(左)と習近平(右)は「恫喝兄弟」?(2019年、平壌) KCNAーREUTERS

<中国が台湾を、北朝鮮が韓国を脅せば脅すほど、それぞれ親中派、親北派が選挙で負ける現象が常態化している。なぜ中朝はこんな非合理的な選択をしてしまうのか>

台湾総統選挙で与党・民進党の頼清徳(ライ・チントー)が当選した。中国は以前から台湾の独立を目指す「完全なトラブルメーカー」だと警戒してきた。

とはいえ、今日の台湾における選挙で中国による激しい批判はむしろ、批判される候補者の側に人々を結集させ、その支持率を上げる効果があった、と言われる。中国が強硬な姿勢を見せれば見せるほど親中派候補者が不利になり、逆に台湾独立派に近い候補が有利になる、という皮肉なメカニズムをそこに見ることができる。


同様の現象は韓国でも見受けられる。得票率にして数㌽以下の差で勝負が決まる韓国の大統領選挙では、選挙戦最中の支持率の動きはわずかであっても時に決定的な意味を持つ。そして、その支持率に影響を与える要素の1つが北朝鮮の動きである。

北朝鮮が韓国に対して強硬な姿勢を取れば取るほど、これに対する警戒の必要性を説く保守派候補者の支持率が上がり、逆に北朝鮮との対話を主張する進歩派候補者の支持率が低下するという現象である。

事実、歴代の韓国大統領選挙では、この「北風」が大きく影響して保守派の候補者の勝利に貢献した、と言われる事例がいくつかある。

しかし、考えてみればおかしな話だ。韓国が民主化されたのは1987年で、それから8回も大統領選挙が行われている。このうち一度たりとも、北朝鮮の韓国に対する恫喝が北朝鮮に近い進歩派に有利に作用したことはない。台湾における総統直接選挙が初めて行われたのは96年で、こちらも8回目になるが、中国からの恫喝が中国に近い候補者の支持率向上に大きく貢献しているようには思われない。

なぜ、北朝鮮や中国はこのような非合理的な行動を繰り返すのだろうか。この点を、北朝鮮の政軍関係を専門にする聖学院大学の宮本悟教授は次のように説明する。

第1に、北朝鮮にせよ中国にせよ、韓国の保守派や台湾の独立勢力に対する批判は選挙時のみではなく、日常的に行われている、ということだ。重要なのは、むしろ選挙前になると韓国の保守派や台湾の独立派のメディアがこれを大きく報道するようになる現象であり、これにより北朝鮮や中国の恫喝があたかも通常より激しく行われているようにみえるのだという。

確かに韓国ではとりわけ近年、大統領選挙の年が近づくと保守紙が進歩紙に比べて2倍以上の頻度で北朝鮮の脅威について報道している、という数字もある。問題は中国や北朝鮮の側以上に台湾や韓国の側にもある、という見方はある程度的を射ている。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

エネルギー市場の深刻なストレス低下の公算、米イラン

ワールド

レバノン、イスラエルとの協議に向け一時停戦提唱 米

ワールド

ネタニヤフ氏の汚職裁判12日に再開 イスラエル、非

ビジネス

米2月PCE価格指数、0.4%上昇に伸び加速 利下
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 2
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポケモンが脳の発達や病気の治療に役立つかも
  • 3
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 6
    戸建てシフトで激変する住宅市場
  • 7
    高学力の男女で見ても、日本の男女の年収格差は世界…
  • 8
    目のやり場に困る...元アイスホッケー女性選手の「密…
  • 9
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 10
    「嬉しすぎる」アルテミスII打ち上げのNASA管制室、…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで代用した少女たちから10年、アジア初の普遍的支援へ
  • 4
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 7
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 8
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 9
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 10
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 9
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story