佐渡金山の世界遺産登録問題、韓国も日本も的外れ
菅直人の前任者であった鳩山由紀夫が、長い慰安婦問題との関係を有していた事にも現れているように、民主党政権は韓国との間に横たわる歴史認識問題の解決に積極的な政権であった。当然の事ながら、このような政権下において、韓国併合100周年を直前にした時期の佐渡金山の暫定リスト入りに、「歴史否定」の意が込められている筈がない。だからこそ、当時の韓国の李明博政権も韓国世論も、佐渡金山の暫定リストを否定的に論じはしなかった。
つまり、そもそもこの問題は、本来、日韓の間に横たわる歴史認識問題とは全く無関係なものである。にも拘わらず、近年激化する歴史認識問題を巡る日韓間の対立の中、いつしか、韓国ではこれがあたかも第二次安倍政権以降の自民党政権による「歴史否定」の一環であり、韓国に対する挑戦だと見做されるようになっている。
そして、本来日韓関係とは無関係な問題を、積極的にその一部として位置づけようとしているのは、日本側も同様である。例えば、安倍晋三元首相は夕刊フジの取材に答える形で、この問題について、「いまこそ、新たな『歴史戦チーム』を立ち上げ、日本の名誉と誇りを守り抜いてほしい」と述べている。元首相や彼と同じ自民党の保守的な政治家が、この問題を、日韓両国間の歴史を巡る争い、即ち、彼らのいう所の「歴史戦」の一部に位置付けようとしているのは明らかである。
朝鮮人が動員されていたのは事実だが
しかしこのような動きは、佐渡金山の世界遺産登録に向けて、プラスになるものではない。何故なら、所謂「歴史戦」において中心的に議論されているのは、朝鮮半島における植民地支配を巡る問題だからだ。佐渡においても、総力戦期に朝鮮半島から動員された労働者が多数働いていた事は良く知られており、これまでに研究論文も幾つか書かれている。
一次史料の発掘も進んでおり、例えば筆者の手元にも「佐渡鉱業所」が作成した「半島労務管理に付て」という記録がある。そこには、「移入当時の政府方針に従ひ内鮮無差別取扱方針"なるも"民族性よりして常に可成り引き締めていく要あり[強調筆者]」として、「与えるところは与え締めるところは締める」という方針に基づく、労働者の逃亡防止対策が示されている。鉱山からの逃亡を試みる朝鮮人労働者に、日本政府と鉱山側が「徹底的取締の強化」を以て対峙した事がよくわかる文書である。
勿論、例えば戦時において動員先における労働契約の解除が容易でなかった事は、内地人においても同様であり、確かにその点においては、朝鮮半島から動員された労働者と大きな違いがあった訳ではない。しかしながら、朝鮮半島からの労働者の多くが動員先の環境に対して不満を有していた事は、その極めて高い逃亡率からも明らかであり、だからこそこれに対して、ここでも管理側は「徹底的取締」により対する事となった。それは間違っても、「美しい話」ではない。
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