コラム

中国は日本を誤解しているのか

2016年05月27日(金)17時30分

現状理解の不一致は未来構想の不一致を生む

 戦後の日本国民は国際社会と共に歩み、他国と共に繁栄する道を歩んできた。その核心にあるのが日米安保体制を中核とする日米関係だ。60年以上前の日本は、この道を主体的に選択した。今日、この決断による成果を日米両国だけでなく、中国を含む地域全体で享受してきた。この地域は世界の工場から市場へ、そして投資者へと発展してきた。

 そうであるが故に、日本国民は「中国の軍事力の近代化や海洋における活動」が未来の地域の平和と繁栄をもたらす構造への挑戦をしかけているように見ている。一方の中国は、自らの「軍事力の近代化や海洋における活動」を未来の自国の平和と発展のために不可欠な国際環境を構築するための取り組みとして位置付ける。

「何が地域の平和と繁栄を保障してきたのか」に対する理解の不一致は、地域の未来秩序構想の不一致を生む。今日の日中関係は地域の未来秩序構想をめぐる競争関係にある。理想は、これを共創に変える可能性を模索すべきだ。そのためにも、日中両国間の相互の理解不足を埋める努力を惜しまず、協調と協力のための窓口を整えてゆくべきだ。中国社会の日本理解の深化を促すだけでなく、日本国民の中国に対する品位ある理解も絶対に重要である。

 しかし同時に、地域の平和と繁栄を保障してきた公共財とは何かを再確認し、その魅力と浸透力を強化するための努力を惜しまず、そして中国の問題ある行動に向き合う姿勢が不可欠なのである。
 

プロフィール

加茂具樹

慶應義塾大学 総合政策学部教授
1972年生まれ。博士(政策・メディア)。専門は現代中国政治、比較政治学。2015年より現職。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター客員研究員を兼任。國立台湾師範大学政治学研究所訪問研究員、カリフォルニア大学バークレー校東アジア研究所中国研究センター訪問研究員、國立政治大学国際事務学院客員准教授を歴任。著書に『現代中国政治と人民代表大会』(単著、慶應義塾大学出版会)、『党国体制の現在―変容する社会と中国共産党の適応』(編著、慶應義塾大学出版会)、『中国 改革開放への転換: 「一九七八年」を越えて』(編著、慶應義塾大学出版会)、『北京コンセンサス:中国流が世界を動かす?』(共訳、岩波書店)ほか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ソニー、米パラマウント買収交渉に参加か アポロと協

ビジネス

ネットフリックス、1─3月加入者が大幅増 売上高見

ワールド

ザポロジエ原発にまた無人機攻撃、ロはウクライナ関与

ビジネス

欧州は生産性向上、中国は消費拡大が成長の課題=IM
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 9

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story