コラム

「核心」化する習近平

2016年02月04日(木)16時00分

 しかし、政権指導部が政治指導者の政治的権威の強化を必要とする背景は、今と80年代末とでは異なるところもある。1980年代末は経済発展を追求するためであった。一方で習近平の場合は経済成長の結果、百出している社会問題を克服するためだ。前者は経済成長の成果というパイ(pie)を拡大するための政治的権威の強化であった。後者はパイを分配するために、政治的権威を強化しようとしている。

「核心」はパイを公平に配分できるのか

 今後中国政治に求められるのは如何に配分するのかだ。分配は難しい。パイが拡大してゆく過程は、その分配は先鋭化した問題にはならない。今日の配分に不満があっても、未来に期待できるからだ。しかし、パイの拡大を期待できない過程では、今日の配分は重要だ。未来の配分はもっと期待できないからだ。

 また、パイの中身は経済成長の成果だけでない。持続的に成長するためのコストも含まれている。今日の中国社会は経済成長のコストの配分のありかたについて神経を尖らせている。日本と同じように、ゴミ焼却場をはじめとする今日の消費社会を支えるインフラの設置場所をめぐるトラブルなどNIMBY(Not in My Backyard=「うちの庭は嫌」) 現象が中国でも普遍的に見られる。強い政治指導者だからといって、社会の構成員がみな満足するようなコストの配分ができるとは限らない。公平さが期待される。配分のありかたについて、習近平政権は解を見出しているのだろうか。

【参考記事】世界2位の経済大国の「隠蔽工作ショー」へようこそ

「ポスト習近平」の選び方

 もうすこし短期的に考えれば習近平の「核心」化は、ポスト習近平の政治にむけた布石ともいえるだろう。

 これまでの慣例にしたがえば、2017年秋に開催が予定されている19回党大会は、2022年以降の中国政治の舵取り役を担う中国共産党政治局常務委員会のメンバーを選出する場となる。中国共産党の党内には、「七上八下」(67歳は留任、68歳は引退)といわれる定年制度がある。この制度が厳格に適用されるのであれば、19回党大会で、政治局常務委員会の7名の委員のうち総書記である習近平と国務院総理である李克強を除いて、全員が引退する。彼らに替わって新たに政治局常務委員会に入ってくる委員が「ポスト習近平」となる。彼らはどうやって選ばれるのか。

 習近平が政治局常務委員会に入ったのは2008年の17回党大会である。このとき習近平と李克強は、中国共産党党内の中央委員会レベルの幹部による「投票」を経て政治局委員、および同常務委員に選ばれた。その後2012年の18回党大会でも、彼らは同様の「投票」の洗礼を浴びた。得票数の多寡は党内序列に反映したといわれる。

プロフィール

加茂具樹

慶應義塾大学 総合政策学部教授
1972年生まれ。博士(政策・メディア)。専門は現代中国政治、比較政治学。2015年より現職。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター客員研究員を兼任。國立台湾師範大学政治学研究所訪問研究員、カリフォルニア大学バークレー校東アジア研究所中国研究センター訪問研究員、國立政治大学国際事務学院客員准教授を歴任。著書に『現代中国政治と人民代表大会』(単著、慶應義塾大学出版会)、『党国体制の現在―変容する社会と中国共産党の適応』(編著、慶應義塾大学出版会)、『中国 改革開放への転換: 「一九七八年」を越えて』(編著、慶應義塾大学出版会)、『北京コンセンサス:中国流が世界を動かす?』(共訳、岩波書店)ほか。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英ジャガー、サイバー攻撃で生産・販売に混乱

ワールド

-中国が北京で軍事パレード、ロ朝首脳が出席 過去最

ワールド

米政権の「敵性外国人法」発動は違法、ベネズエラ人送

ビジネス

テスラ、トルコで躍進 8月販売台数2位に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 8
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 9
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story