コラム

ご近所でも見られる移民大挙の現実

2015年08月03日(月)16時55分

 僕の家の通りにある家々はどれも、小さくて狭い庭付きだ。偶然か設計上の都合か分からないが、僕の家の右側に並ぶ家の多くがかなり低いフェンスしか立てていない。低い塀の利点は、庭に日光が良く当たること。もっと背の高いフェンスだと小さな庭は1年の大半が陰に覆われるだろうし、夏でも数時間しか日が当らない。
 
 難点は、ご近所さんがみんな庭に出ていると、ほとんどプライバシーがない状態になること。お互いに丸見えだから、この間などあまりに暑くてTシャツを脱ぎたかったけど脱げなかった。お隣の家の10歳の女の子が1メートルもしないところに立っていたからだ。

 幸い、僕の隣人はみんないい人たちのようだ。すぐお隣は30代の男性と妻、2人の娘とたぶん、男性か妻の母親。隣の家はかなり小さいから、一家はけっこうな長い時間を庭で過ごし、何度もバーベキューをしている。たぶんポーランド出身だとは思うけれど、あえて聞いたことはない。奥さんはあまり英語が上手じゃなくて、僕のあいさつにいつも「イエス」だけで答える。「いい天気ですね!」「雨が降りそうですね」「お宅のトマトは良く育ってますね」のすべてに「イエス」だ。

 僕はむしろ、そのまた隣の家のご婦人と話すほうが多い(一軒挟んでも十分会話ができる近さだ)。彼女はガーデニングが上手で、僕のへたくそな庭のことも親切にほめてくれる。彼女とその夫は年配の中国人だ。ここの近所にはなんと、5~6軒の「オリエンタルな」レストランや店が並ぶ小さな「チャイナタウン」がある。

 さらにその隣の家のことは、しばらく心配だった。若い男性が庭でけたたましく音楽を演奏しては、友人を呼んで騒いでいたからだ。彼はポーランド語のラップに合わせてベースをかき鳴らしていた。数週間後にパタリとやんだところをみると、たぶん誰かが注意したのだろう。彼もポーランド人で、同じくポーランド人の妻と小さな男の子がいる。

 さらにその隣に誰が住んでいるのかは知らない。そしてその次の2軒はモスクにつくり替えられている。ラマダン(断食月)にはいつも、庭に出ると夜遅くまではっきりとコーランを唱える声が聞こえてくる。礼拝が終わると200~300人もあふれ出てくるのは、アフリカやトルコ、中東やパキスタン出身の人々。彼らの多くはタクシー運転手として働いている。酒を飲まず、英語を話すのが得意でない人々にはうってつけの仕事だろう。

 僕の家から狭い路地を挟んで左側の家の住人は、この通りでいちばんの親友だ。会うと立ち話をするし、何度か家のことを手伝ってもらったりした。彼はオランダ人だが、その妻は僕と同郷のエセックス州出身だ。

 さらにその隣の家のご婦人とは一度も話したことがないが、時々スーパーマーケットで見かけることがある。彼女はよく店員を呼びとめて製品について質問している。「これはおいしい?」「これはどう調理するの?」」。この手の質問は珍しいから、店員は答えに困っている。彼女のアクセントからして、おそらくギリシャ人だろう。彼女は年金生活者で、僕がよくサッカーを見に行く近所のバーを経営しているのが彼女の息子と親族なのは間違いない。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ドイツ輸出、5月は予想以上の減少 米国向けが2カ月

ビジネス

中国自動車販売、6月は前年比+18.6% 一部EV

ワールド

ガザ停戦は可能、合意には時間かかる=イスラエル高官

ワールド

アングル:中国人民銀、関税懸念のなか通貨安定に注力
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 5
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    米テキサス州洪水「大規模災害宣言」...被害の陰に「…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 10
    中国は台湾侵攻でロシアと連携する。習の一声でプー…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 8
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 9
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story