コラム

「誰もが中国に恋をする」─ 中国、原発を使い外交攻勢

2015年11月05日(木)17時10分

仏電力公社と中国系企業の出資によって、新しい原発建設が予定される英ヒンクリー・ポイント原子力発電所 Suzanne Plunkett - REUTERS

 原子力産業における中国の急速な成長と日本の凋落について、9月の寄稿で紹介した。(筆者記事「台頭する中国の原子力産業」)残念ながら懸念が予想通りになりつつある。

大規模投資に屈する英政府

 中国の習近平国家主席は10月20日から24日まで英国を訪問した。そこで両国は総額400億ポンド(約7兆4000億円)に上る投資・貿易契約で合意した。その中でも中国の原子力プラントメーカーの参加する英国の原発計画に国際的な関心が集まっている。日本であまり報道されていないので、紹介してみよう。

 中国企業が参加する原発の計画は、英南西部のヒンクリーポイント、東部ブラッドウェル、同サイズウェルの3カ所だ。いずれも中国広核集団(CGN)がかかわる。CGNは中国に3つある原発製造グループの一つで、中国の南部で仏アレバ社の技術をベースに原発を建設・運営してきた。中国政府は原子力メーカーを競わせながら、庇護も与えている。

 ヒンクリーポイントでは、仏電力公社(EDF)が仏アレバ社製のEPR(欧州加圧水型炉)2基を建設。総工費は約180億ポンド(約3.3兆円)で、EDFが66.5%、CGNが33.5%を出資し2025年の稼働を目指す。投資の最終的決定は本年末までに行われる予定だ。またEDFがサイズウェルに運営するEPR2基についても、CGNが20%以上を出資することが決まった。総額は未定だ。

 ブラッドウェルではCGNが66.5%を出資し、主導して原発を作る。数はおそらく2基の予定だが、まだ投資総額は決まっていない。同社の中国の国産原子炉「華龍1号」の建設申請をする方針という。

中国の新型原発、最初の導入も

 華龍1号は出力を100万kW(キロワット)程度と150万kWの多い最近の原発の中ではやや小さくする一方で、安全設備を最低限にして建設費用を下げようとした設計コンセプトを持つ。途上国ではこの原発導入の商談がいくつか進んでいる。来年に英当局に計画を提出する予定で審査に合格すれば、中国製の原発が初めて先進国で採用されることになる。

 英国の決断にフランス政府も歓迎の意向を示した。「仏原子力産業の再生の象徴だ」。英中両首脳が英国内の原発建設に合意した21日、マクロン仏経済相は称賛した。フランスの国策の原子力プラントメーカーアレバは14年決算までに、4期連続赤字となり、EDFと政府の支援で15年に救済された。

 フランスのオランド大統領は11月1日、EDFやアレバの首脳など経済人約40人と共に中国を訪問。中仏が原子力や環境分野を中心に経済協力を拡大することで合意した。そしてアレバに中国国有大手が出資し、海外の原発市場を共同開拓する方針も示した。

プロフィール

石井孝明

経済・環境ジャーナリスト。
1971年、東京都生まれ。慶応大学経済学部卒。時事通信記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長を経て、フリーに。エネルギー、温暖化、環境問題の取材・執筆活動を行う。アゴラ研究所運営のエネルギー情報サイト「GEPR」“http://www.gepr.org/ja/”の編集を担当。著書に「京都議定書は実現できるのか」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米で「アンティファ」メンバーに有罪判決 初のテロ罪

ビジネス

パウエルFRB議長巡る召喚状、地裁が差し止め 司法

ワールド

焦点:雪解けは本物か、手綱握りなおす中国とロシア向

ワールド

米、イラン新指導者モジタバ師ら巡る情報提供に最大1
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 2
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切りは常軌を逸している」その怒りの理由
  • 3
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド太平洋防衛
  • 4
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 5
    「イラン送りにすべき...」トランプ孫娘、警護隊引き…
  • 6
    『ある日、家族が死刑囚になって』を考えるヒントに…
  • 7
    有人機の「盾」となる使い捨て無人機...空の戦いに革…
  • 8
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 9
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 10
    謎すぎる...戦争嫌いのMAGAがなぜイラン攻撃を支持す…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 6
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 7
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 8
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 9
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story