コラム

クリスマスに急転直下、漁業問題も先送りのブレグジット合意の危うさ

2020年12月25日(金)19時00分

ただ、英国の「勝利」とされているいくつかは、双方の当初の立場を正確に比較してはいない。

フランスの日経新聞「Les Echos」は以下のように書いている。


交渉の真の勝者が誰であろうと、現在の状況は首相の手にかかっている。

クリスマス・イブ(日本のおおみそかに相当)の前で、いかなるロビー団体も、(移行期間が終了となる)来週の前に、実際に合意のテキストを解剖分析して、可能性のある欠陥を指摘するということができない、というだけではない。

いつもはEU懐疑派で、右翼系のマスコミは、デイリー・メールからデイリー・エクスプレス、ザ・サンまで、ここ数日、政府がワイヤーで合意を引き上げるという偉業を絶賛しているように見えた。


保守党のEU離脱派のメンバーも、合意に賛成しているようだ。

ジョンソン首相はここ数週間、彼らをなだめるための努力を惜しまなかったと言わなければならない。彼らの利益の守護者を装うためにドラマ仕立てで強調しているし、昨年、離脱協定を議会で可決させることに成功したのと同じレシピを使っている、としてもである。

そのレシピとは、まず、EUに対して尊大な毅然とした態度を示し、次に妥協点に達するためにバラスト(船のバランスをとるための重し)を手放し、それを外交的な成功で信用に値するものとしてプレゼンすることだ。

彼がどれだけ力を入れているかを示すために、ここ最近、写真が積極的に使われた。半闇のオフィスでデア・ライエン委員長と電話をしていたり、ブリュッセルにいる彼女と直に話すためにジェット機のはしごを登ったり、である。

この広告宣伝は、どこまでその効果はもつのだろうか。

合意内容が公開されて、年が明けてすべての人が仕事に戻ったとき、合意内容はどのように評価されるのだろうか。

そして、EU加盟国の側は?

EU加盟国側の反応はどうだろうか。

バルニエ首席交渉官を筆頭に、欧州委員会は今まで、主にブリュッセル駐在の加盟国大使を通じて、27カ国の首脳の同意を取りながら進めてきたのだから、極端な反対意見は出ないと思われる。おそらく、27カ国の政府レベルでは了承となるだろう。

しかし、各国の現場や識者からは不満が出るだろう。それは、選挙で選ばれなければならない各国の政治家にとって、非常に嫌なものになりかねない。

「5年半」という漁業の移行期間も、本当にギリギリまで妥協したのではないか。EU内は(一応)民主主義国家ばかりだから、5年の間に一度も選挙がない国はおそらく存在せず、それよりは長い期間である、という判断だった可能性はあるだろう。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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