コラム

台湾有事は近づいているのか?

2023年08月21日(月)16時52分

2年前の記事で紹介したように、とっくに民主主義は世界の多数派ではなくなっている。今後、さらにその数を減らす可能性が高い。世界はアメリカの統治モデルが有効に機能しない不安定なものになっていく。

中国にも人口や経済の問題はあるものの、アメリカが抱えている問題の方が大きく、時間が経つほどアメリカの影響力は減少すると考える方が妥当だ。中国が拙速な行動を起こす必要はない。

付け加えると、中国はサイバー攻撃能力を強化、拡大しており、こちらも時間とともに脅威が増している。たとえばサイバー攻撃に用いられるシステムの弱点=脆弱性がある。アメリカ企業は自社製品の脆弱性の発見に対して報奨金を支払っているが、その支払い先の1位は当然アメリカ国内だが、2位は中国で、その差は5%と大きくない(参考:過去記事)。中国は当然すべての脆弱性をアメリカ企業に知らせているわけではないので、実際にはアメリカを上回っている可能性もある。

これは一例に過ぎないが、サイバー攻撃の高度化、規模の拡大などさまざまな点で中国のサイバー攻撃能力は進化している。この点でも時間は中国に有利に働く。

台湾有事と有事の準備

中国が実際に軍事侵攻するかどうかは別として、選択肢として存在する以上そのための準備は必要であり、その意図を見せることも重要だ。中国にとっては軍事侵攻の可能性を示してプレッシャーをかけながら、最終的に軍事侵攻をともなわない併合を実現する方が効率的だ。

全く同じことが台湾やアメリカ、日本にとっても言える。中国の軍事侵攻に本気で対抗する準備をしていることを見せて、中国に併合を諦めさせなければならない。中国にとって軍事侵攻は優先度の低い選択肢だが、アメリカや日本がなにも対策していないなら、優先度はあがるかもしれない。どちらにとっても軍事侵攻は避けたい選択肢だが、双方が本気で軍事侵攻を想定した準備を行うことで優先度を下げることができる。

今回のサイバー空間での出来事は、その準備に当たる。サイバー空間では軍事侵攻前の準備として、情報を収集し、マルウェアやバックドアを相手のネットワークに配備しておく。ロシアもウクライナ侵攻に先だってマルウェアを配備していたが、侵攻前に、ウクライナとその支援に当たったアメリカ企業などによって無効化された。

今回、グアムの施設やクラウドサービスあるいはNISCで起きたことは中国が進めている準備の一部が暴かれたと考えられる。中国は台湾有事に限らず、常時サイバー空間でこうした活動を行っており、常在戦場の展開を行っている。時間が経つほど、こうした仕掛けが台湾やアメリカ、日本、韓国といった国々のインフラや施設に仕込まれてゆく。

また、NISCの事件については、事件発生から3年経ってからの公開なので別の意図も感じる。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)など著作多数。X(旧ツイッター)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金総書記、新誘導技術搭載の弾道ミサイル実験

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ

ビジネス

ユーロ圏インフレ率、25年に2%目標まで低下へ=E

ビジネス

米国株式市場=ダウ終値で初の4万ドル台、利下げ観測
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story