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焦点:トランプ税制改革の命運握るダイナミック・スコアリング

2016年12月31日(土)11時26分

 12月28日、トランプ次期米大統領が来年、どこまで抜本的な税制改革を進めることができるかを決める1つの要素は、議会両院税制合同委員会(JCT)が税制変更がマクロ経済及ぼす影響からのフィードバック効果をどのように判断するかになるだろう。写真はアリゾナ州で8月撮影(2016年 ロイター/Carlo Allegri)

[ワシントン 28日 ロイター] - トランプ次期米大統領が来年、どこまで抜本的な税制改革を進めることができるかを決める1つの要素は、議会両院税制合同委員会(JCT)が税制変更がマクロ経済及ぼす影響からのフィードバック効果をどのように判断するかになるだろう。

JCTは議会規則に基づき、税制変更が経済成長などを通じて税収に跳ね返ってくる効果を推計する、いわゆる「ダイナミック・スコアリング」の結果を示すことが義務付けられている。このフィードバック効果が大きいほど、財政赤字を抑制できるとみなされる。

トランプ氏と議会共和党が30年来の大規模な税制改革を計画している中で、JCTに減税推派からかかる圧力は大きい。減税推進派は、フィードバック効果があまりに小さく推計されて、減税法案が財政赤字をさらに大きく増やすと証明されてしまう事態を懸念しているのだ。

保守系シンクタンク、ヘリテージ財団の経済政策フェローのデービッド・バートン氏は「問題はJTCのスタッフがフィードバック効果を最小限にとどめるようないくつかの前提条件を採用し、税制改革がもたらす適切な効果を過小評価している点にある」と指摘する。

実際にJCTが低調なフィードバック効果を公表すれば、共和党は減税の規模を縮小するか、一時的な措置とする可能性がある。そうなるとトランプ氏が選挙中に打ち出した公約は深刻な制約を受けてしまうだろう。

一方でアナリストからは、フィードバック効果を高めに提示することを求める圧力で政治的に都合の良い数字が作成され、議会を通過する役には立っても結局財政赤字を膨らませる危険性に警鐘が鳴らされている。

下院では昨年、共和党が主導する形で新たな議会規則が採択されてJCTは、ダイナミック・スコアリングによる1つの推計結果のみを提示しなければならなくなった。それ以前は、推計作業の不確実性を反映して異なったモデルに基づいた複数の推計結果が明らかにされてきた。

JCTの事務方トップを務めるトーマス・バーソルド氏はロイターのインタビューで、この新方式を実行する難しさがあると認め、「米経済は非常に複雑で、絡み合うすべての状況やニュアンスをすべて拾い上げる1つのモデルを持つことは不可能だ。だからモデル化で肝心なのは、余計な材料をそぎ落としていくつかの重要なポイントを強調することになる」と語った。

ただしダイナミック・スコアリングは他の経済モデルの算定と同じく正確性には難がある。つまり財政政策に関して言えば、理論上の結果が現実の納税者や米経済に深刻な悪影響を及ぼしかねない。

JCTは2014年、共和党のデーブ・キャンプ下院議員が提出した税制改革法案についてダイナミック・スコアリングに基づいて500億─7000億の歳入増と0.2%─1.8%ポイントの成長押し上げが見込めると推計した。

来年出てくると予想される税制改革案は恐らくもっと複雑で、歳入や経済の見通しの幅はずっと広がるとの見方もある。

この改革案は、トランプ氏が支持するものとライアン下院議長ら下院共和党がまとめた内容の折衷案となりそうだ。

独立系民間調査機関タックス・ファウンデーションは、下院共和党案は長期的に国内総生産(GDP)を9.1%増やし、賃金を7.7%上昇させ、170万人の新たなフルタイム雇用を創出すると見積もる。マクロ経済からのフィードバック効果を考慮しないと10年間で2兆4000億ドルの歳入減となるが、考慮すれば歳入の落ち込みは1910億ドルにとどまるという。

一方で中道系調査機関であるタックス・ポリシー・センターによると、下院共和党案の向こう10年のGDP押し上げは1%で、フィードバック効果を踏まえても2兆5000億ドルもの歳入が消えてしまうと予想している。

(David Morgan記者)

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