ニュース速報

ビジネス

焦点:東電「社債再開」へ広がる動き、市場は年度内発行を期待

2016年12月27日(火)18時11分

 12月27日、福島第1原子力発電所事故以降、止まっていた東京電力債の発行再開に向けた動きが広がってきた。写真は都内で3月代表撮影(2016年 ロイター)

[東京 27日 ロイター] - 福島第1原子力発電所事故以降、止まっていた東京電力債の発行再開に向けた動きが広がってきた。事故処理費用の政府試算がまとまったことなどを背景に、投資家側には東電が狙う年度内再開への期待も高まっている。

東電の新事業計画や廃炉制度などが確定した後の来年度第一四半期の発行なら可能との声があるなか、トランプ相場の先行き悪化などを懸念する市場には、早期の発行再開を求める声が根強い。

<東電、全国行脚で積極IR>

「(早ければ)2月にも東電が社債市場に戻ってきそうだ」ーー。ある起債関係者は、水面下で東電が社債発行に向けた具体的な準備を進めていると話す。1月中旬に複数の証券会社に投資家動向を含む提案書を要請し、主幹事を選定するものとみられる。

発行体となるのは、東京電力ホールディングス(東電HD)の傘下で一般配送電事業などを営む東京電力パワーグリッド(東電PG)だ。東電は16年4月に持ち株会社制に移行したが、持ち株会社である東電HDはコストが膨れ上がる福島第1原発のリスクを直接抱えており、発行できる状況にない。一方、送配電子会社である東電PGは市場支配力が強く、高い信用度を維持しており、投資家のリスク懸念を払拭しやすい。

東電は東電PG債発行に向け、すでに1年以上をかけ北海道から鹿児島まで全国の機関投資家を訪問してきた。当初希望していた今年9月の発行はできなかったが、投資家や証券会社の間には12月中旬以降、今年度中の発行再開を受け入れる姿勢が徐々に広がっている。経済産業省の有識者会議などで同社の改革に一定の方向性が打ち出され、債券市場にとって発行リスクが見通しやすくなったことが一つの理由だ。

経産省は今月9日、福島第1原発の事故処理費用が21.5兆円に膨らむとの試算を公表。20日には同省の有識者会議が、原発や送配電事業で他の電力会社と再編・統合することを促す提言をまとめた。

多くの債券投資家は「(今後の東電改革に)他の電力が関与すれば、東電のクレジット(信用度)には、むしろプラスに働く」(投信・投資顧問)と前向きな判断に傾いている。さらに、東電改革や福島事故の処理について「しばらくはこの枠組みでやっていく方針が固まった」(生保)との見方も少なからずある。

<電力会社として最大の発行体>

16年3月末における東電の社債発行残高は3兆4556億円。社債市場からの退出を余儀なくされてから約6年が経つが、事故前と同様に電力会社として最大の発行体という位置付けに変わりはない。

同社は17年度だけで6500億円(発行額ベース)の公募債償還を控えており、巨額の資金を社債市場から断続的に調達する必要がある。今年度中に一度は発行しておきたいというのが東電側の思惑だ。

東電HDは「年度内の発行を目指していることには変わりはない」(広報室)としている。今月20日、広瀬直己・東電社長は記者団に対し「ぜひ社債を発行していきたいと思っている」と、改めて再開に向けた意欲を示した。

一方、投資家の中には、すでに今年度の投資枠を東電PG債のために確保しているところも少なくない。発行が17年度にずれ込めば、あらたに稟議(りんぎ)を通す手間が発生するため、投資家側からも東電債の早期再開への期待が高まっている。

<求められる高いスプレッド>

しかし、東電が狙う年度内の起債再開には、なお不透明な要因がある。同社に詳しいある関係者は「出すのであれば3月ではなく(来年度の)第一四半期。6月くらいまで待つべきでないか」と話す。東電改革の基本となる新たな総合特別事業計画、原子力損害賠償・廃炉等支援機構法改正による新たな廃炉制度が整ってから発行すべきという指摘だ。

さらに、米国の次期大統領となるドナルド・トランプ氏の就任後、海外も含めた市場の地合いが大きく変わりかねないとの不安もある。フコクしんらい生命・財務部長の林宏明氏は「年明けにトランプラリーが弱まり、マーケットが調整局面に入るなどの理由で投資家がリスクオフに転じれば起債は難しくなるため、年内の起債が理想的だった」と指摘する。

来春にはオランダ議会選挙やフランス・ドイツの二大国で政権交代の可能性をはらんだ選挙、大統領選などイベントが続くため、ある投資家は「悠長にやっていると東電は発行のタイミングを失いかねない」と話す。

東電PG債の発行条件もハードルになりかねない。同社債の格付けは他の電力債に比べると低いため、「スプレッドで国債+100bp(ベーシス・ポイント)程度が必要」(生保)と、他の電力債に比べて3倍近いスプレッド・レベルを求める投資家もいる。

市場が投資リスクに見合った大きなスプレッドを求めていることについて、ニッセイ基礎研究所・金融研究部主席研究員の徳島勝幸氏は「柏崎刈羽原発の再稼動には法的な根拠もなく、先行き不透明感の一因ともなっている」と指摘している。

*見出しを修正しました。

(ディールウォッチ編集部(間一生、片山直幸、福井康典) 取材協力:浜田健太郎 編集:北松克朗)

ロイター
Copyright (C) 2016 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、軍事演習で戦術核兵器の使用練習へ 西側の挑

ワールド

再送イスラエル軍、ラファ空爆 住民に避難要請の数時

ワールド

再送イスラエル軍、ラファ空爆 住民に避難要請の数時

ワールド

欧州首脳、中国に貿易均衡と対ロ影響力行使求める 習
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 3

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 6

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 7

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 10

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中