コラム

岸田政権の少子化対策はいまだに「家族主義」を引きずったまま

2023年02月09日(木)17時44分

民主党が進めようとした「子育ての社会化」を後退させた自民党が、それに代わる少子化対策として提案したのは、上記の保守イデオロギーに基づいたお粗末なものだった。たとえば三世代同居の推進であったり、祖父母から孫への財産贈与であったり、官制婚活の推進であったりといった(保守派が考える)伝統的家族の復活政策だ。その結果、民主党時代も含めて微増しつつあった合計特殊出生率は、第二次安倍政権下で再び下落に転じた。それでもなお政府与党に危機意識は生まれず、内閣府が恋愛教育として「壁ドン」を指南するという資料がつくられていたことが発覚したのは、つい昨年のことだ。

岸田首相が述べる「異次元の少子化対策」を徹底するためには、このような従来の自民党イデオロギーから脱却する必要がある。たとえば、日本の育児休暇制度は世界でも最も充実しているのだが、イマイチ機能していない。原因の一つは育児休暇制度利用の男女格差だ。男性の取得率や取得期間が女性と比べて極端に少ない。一方で、女性の育児休暇取得率は8割を超えている。これは見方によれば、女性が早期職場復帰する環境を社会が準備できていないという結果だということもできる。

選択的夫婦別姓も拒否して数十年

日本における育児休暇制度・育児休暇取得の現状は、ある意味では自民党イデオロギーに即している。つまり、女性が家庭で子育てを行い、男性が働くという構造になっている。しかしこの構図は女性のキャリア形成を阻害し、子作りへの抵抗を生む。

岸田政権は、育児休暇中のリカレント教育を支援することを表明して、育児休暇は「休暇」ではない、子育ての大変さを理解していない、などの批判を浴びた。必要なのは、育児休暇の男女格差の解消と、女性が早期に職場復帰できるような制度(保育サービスを拡充するなどの子育ての外注化)を充実させることだが、そのためには、子育ては外注サービスも活用しつつ男女平等に担うのは普通のことであるとして、社会の意識も変える必要がある。

こうした子育てに対する社会の根本的な意識改革を行わなければならないときに、政権党がそもそも「伝統的家族観」に囚われたままでは、物事は何も進まないだろう。たとえば「親学」では子供は3歳までは母親が育てるべきだとする神話があり、そのような信仰を共有している政党の下では子育ての外注化は敬遠されてしまう。自民党は10年越しでやっと子ども手当ての有効性を認めた。しかし抜本的な反省がなければ、次の政策を行うまでに更に10年の歳月を必要としてしまうかもしれない。

既に、加藤勝信厚労相は、児童手当の所得制限撤廃が「議論の中心になりすぎている」と、苦言とも受け止められるコメントを残している。この期に及んで所得制限撤廃にすら難色を示しているのだ。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

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