コラム

ドラマ『新聞記者』で感じる日本政治へのストレス

2022年01月25日(火)18時13分
森友学園

カタルシスはなくても、現実の森友学園問題に即したドラマが作られたのは画期的(写真は2017年4月) Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<現実に即した結果、政府が正義と真実を曲げるだけ曲げて、最後までカタルシスがないドラマだが、事件の当事者たちは諦めずに真実を追求している>

2022年1月より、2019年に公開された映画『新聞記者』(藤井道人監督)のドラマ版がNetflix製作で配信され、話題を呼んでいる。今回のドラマは映画版とは異なるストーリーで展開している。どちらも政治腐敗とメディア統制を主題にしているのは一緒だが、映画版が加計学園問題を主題とし最終的には完全なファンタジーへと至るのに対し、ドラマ版では森友問題を中心に、より現実の不正事件をモデルとした物語を描こうとしている。

世間の評価

この物語は、日本のドラマにしては珍しくアクチュアルな政治問題を真正面から扱っており、主にそのことを評価している人が多い。ただし、実際の事件とフィクションとしてのドラマには差異があり、その違いに関しては考慮しておかなければならない。

一方で、ドラマそのものの質については、批判の声もある。たとえば英紙ガーディアンは、このドラマは政治ドラマというよりはメロドラマであると評している。また内閣調査室を薄暗い部屋でロボットのような職員がパソコンに向かっているという秘密組織的な描写にするといった作中の演出も、リアリティよりもそれっぽさを狙っており、評価が分かれるところだろう。

ストレスが溜まるドラマ

筆者にとって、『新聞記者』はただただ気が滅入ってくるドラマであった。作中で政府は理不尽に真実と正義を曲げていく。我々は、こうした理不尽がフィクションの世界のみならず現実でも起きていることを知っている。そしてここで溜まったストレスを発散させるカタルシスが起きないことについても、我々は知っているのだ。

この点で、『新聞記者』は、しばしば比較されることがある映画『ペンタゴン・ペーパーズ』(2017)や『共犯者たち』(2017)のような、報道に対する政府の圧力を扱った海外作品とは異なる。アメリカ映画『ペンタゴン・ペーパーズ』の結末では、メディアが団結してベトナム戦争の真実を報道した。韓国映画『共犯者たち』では、セウォル号事件の大誤報という悲劇に陥るが、それをきっかけに韓国では政権交代が実現した。どちらも物語としてのカタルシスがある。

しかし『新聞記者』にはそのようなカタルシスはない。このドラマが登場人物の成長や心境の変化を軸に描かざるを得なかったのも仕方がないのかもしれない。日本は何も変わらなかったからだ。多くの日本人が、国の理不尽を正すよりも目の前の利権や権威への従属を選択したのだ。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

世界の石油市場、26年は大幅な供給過剰に IEA予

ワールド

米中間選挙、民主党員の方が投票に意欲的=ロイター/

ビジネス

ユーロ圏9月の鉱工業生産、予想下回る伸び 独伊は堅

ビジネス

ECB、地政学リスク過小評価に警鐘 銀行規制緩和に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 8
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 9
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 10
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story