コラム

「コートジボワールの虐殺」捜査

2011年04月07日(木)17時07分

 国際刑事裁判所(ICC)のルイス・モレノ・オカンポ主任検察官は4月6日、ここ数カ月間にコートジボワールで起きている残虐行為の本格的な捜査を認めるよう要請する可能性があると発表した。これは「犯罪をおかした者たちに逮捕状を要請する準備」に向けて、「迅速に」事を進めるよう国連安全保障理事会に求めるものだ。

 捜査に値する犯罪が行われているのは間違いない。先週末には西部の町ドゥエクエで、少なくとも1000人が殺害されたと報じられ、6日には他の地域でも大虐殺が行われたことが判明した。市場の爆撃や野党勢力の行方不明事件の責任を、ローラン・バグボの部隊に問うのは当然のことだろう(バグボは大統領再選をかけた昨年11月の選挙で敗北したが、その後も大統領の座に居座り続け、選挙で勝利したアラサン・ワタラ元首相との対立が激化していた)。

 ただし、この政治的な危機を終わらせるには多くの難題がある。

 まずバグボの国外追放の問題だ。ICCによって告発されるリスクがあるとなれば、ICCに加盟している国にバグボが亡命する可能性は非常に低くなるだろう。交渉担当者がバグボに恩赦を与えることもできなくなる。ICCが捜査開始にこぎつけて、バグボが起訴されることになれば、コートジボワールの司法機関は彼の身柄を引き渡さざるを得ないだろう。しかしその場合、バグボの支持者がどう反応するかという新たな難題が浮上する(大統領選で彼の得票率が46%に達したことを考えると、反応は良くないだろう)。

 どんな政治家の逮捕でも、軋轢を生み出す可能性はある。というのも、ドゥエクエでの市民の死には、ワタラ元首相を支持する部隊が関わっているとする報道もある。ワタラ側はいかなる悪事も関わっていないとしており、自らの部隊に犯罪の責任を取らせようとはしないだろう。バグボかワタラか、片方の「正義」を守るような政治プロセスは、国民に受け入れられないだろう。

■二分された国で「1つの出口」を見出す鍵

 犯罪の責任を問うべきではないと言っているのではない。責任は問われるべきだ。ICCの支持者たちはICCが捜査を行うと約束することによって、バグボ、ワタラ両陣営の傍若無人な振舞いを抑止できると主張しているが、それは正しい。

 問題なのは、コートジボワールが今、極めて微妙な時期にあることだ。国は二分され、バグボが威厳を保ったまま退陣することが許されないなら、状況はさらに悪化する恐れがある。いずれかの陣営を支持する民兵の主張を鵜呑みにするわけにもいかないし、無視するわけにもいかない。

 今の危機が落ち着いたら、社会的結束を築き上げることがワタラにとって大統領としての最大の挑戦になるだろう。分裂したコートジボワール人が再び共に生活できることを保証する必要がある。

 コートジボワールのように分裂した国でも、正義が果たされたことはある。独裁者アウグスト・ピノチェトの失脚後のチリや、内戦後のシエラレオネがいい例だ。成功へと導く鍵は、まず政治的解決の道を確保し、正義の追求に向けてその国の裁判所とICCの調停プロセスを一体化すること。そして個人に対する起訴が、その人物の属する宗教的、人種的、政治的な集団に対する起訴ではないことを、すべての市民に理解させることだ。

 6日の時点では、バグボを国外へ引っ張り出すための交渉は「決裂」し、国際社会が昨年の大統領選の勝者と認めるワタラを支持する部隊が大統領公邸を襲撃している。両陣営とも、自分たちが非常に危険な状況に陥っていると自覚していることを望むしかない。

──エリザベス・ディキンソン
[米国東部時間2011年04月06日(水)12時42分更新]

Reprinted with permission from "FP Passport", 07/04/2011. © 2011 by The Washington Post Company.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 5
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 8
    三船敏郎から岡田准一へ――「デスゲーム」にまで宿る…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story