コラム

社員旅行で眺めた日本

2013年05月21日(火)08時00分

 5月中旬、友人から携帯にメッセージが届いた。「日本では日本酒と、冷たいビールと、冷たい牛乳と、冷たいジュースと、冷たい水道水をそのまま飲んでも、わたしのお腹はなんともない! まだまだ食べたい飲みたいと思うくらい。中国ならそんなことをしたら1日もしないうちにバッタリだわ。ここは本当に素晴らしい国!」

 中国のIT関連企業に勤めるチャンさんは、社員旅行で初めての日本滞在中だった。毎日のように彼女から届く写真とメッセージを見て、6日間の滞在を終えて帰国したチャンさんにお願いして仲の良い同僚のシュウさん、モンさん、ビンさんに集まってもらった。チャンさんが得意げに温泉地から送ってきた写真に浴衣と丹前を上手に着こなして仲良く写っていた男性3人組だ。

 残業で遅くなる、というビンさんを待たずに、4人で鍋を囲みながらおしゃべりが始まった。

――旅行に参加したのは何人くらい?
シュウ:うちの社員は20人、あと旅行社の随行員が1人、それに現地でガイドが付いた。
チャン:最初は日本に行く予定じゃなかったのよね。3月にまず、みんなで行き先を投票したんだけど、その時は「日本」と書いた人はいなかった。でも、結果が東南アジアに集中して、「それじゃつまんないね」という話になり、「北朝鮮はどう?」とかいうアイディアまで出た(笑)。やっぱり話題になるような国には行ってみたいよねぇ、て。

――投票で「日本」が出て来なかったのは、やっぱり去年のことがあとを引いてた?
シュウ:...というより、最大の理由は日本は高いと思ってたから。
チャン:でも調べてみたらタイに行くのも日本に行くのも大して変わらないって分かったの。タイは最近ある映画がヒットした影響でで中国人旅行客が殺到してるから。わたし自身も去年バリ島に行ったので、タイも大した違いはないわよねぇって。あとシンガポールとかマレーシアとかも香港と似てるし、わざわざ社員旅行で行く意味は感じなかった。そこで出て来たのが北朝鮮(笑)
シュウ:北朝鮮は行ってみたいなぁ...
チャン:...とか言ってた時に、日本を強力推薦する人が3人いたのよね。それで上司が、「よし民主などいらん、これは独裁で決定する。日本にしよう!」(笑)。それを聞いてもうみんなが「わーい、日本だ、日本だ!」って、日本一辺倒になった(笑)。

――こだわりはなかった?(笑)
チャン:微博に「日本に行くの!」と書いたら、いろんな友だちが「いいなー、行きたい!」って羨ましがられたわ。日本がどうとか、とかいう人はほとんどいなかった。
シュウ:ぼくの周囲もそう。ぼくらが付き合ってるのは基本的に若い世代だからね、考え方も開放的なんだよ。年上の人たち、あとは情報があんまり流通してない地域の人ならガタガタ言うのかもしれないけどね。
チャン:でも、うちの両親はオープンよ。父なんか、(中国の黄金ニュース番組)「新聞聯播」を見るたびに「嘘こけ!」ってテレビに向かって言ってるし(笑)。
シュウ:ぼくの親父もそう。「毎日下水油を食わされてるんだ、それでなんでまた下水油のニュースを聞かされなきゃいけないんだ!」ってね(笑)。

――周囲の友だちからこっそり警告されたりとかもなかった?
チャン:そうねぇ、わたしが聞いた中で一番日本に不利な言葉は...「今はレートが下がってるから、日本で買い物するにはぴったりよね!」(笑)。帰ってきてからまたレートが下がっていて、香港の友だちが「まだまだ下がるよ、君たち、損したねー」って言うから、「じゃあもう一回行こうかな?」って言ってるところ(笑)
シュウ:チャンスがあったら絶対もう一回行く。だって、まだ観たりないもん。

――あなた方は日本に行ったことは?
チャン:一緒に行った20人全員はみんな初めての日本だったの。
シュウ:ぼくは、日本の大地震が起こった時に仕事で行くことになりかけたんだけど、結局行けなかったし。

ビンその1.jpg有名な新宿の中国人案内人、李小牧さんの湖南菜館。華人の世界でも日本の風俗産業の不思議な経歴で知られる李さん、映画「新宿事件」は彼の小説を改変したものだと聞いた。by ビンさん

――日本で特に新鮮だったことはなに?
チャン:日本の水道水がそのまま飲めること! 日本でついた中国人のガイドさんが教えてくれたの。わたしはもともと胃腸が弱いんだけど、日本で冷たいものを飲んでも温かいものを飲んでも、生物を食べても全く大丈夫だった。中国ではお刺身を食べてもお腹にくるの。
モン:中国はどうしても鮮度が落ちるからね。
シュウ:ぼくは着いてすぐに水道水を2杯飲んでみた。牛乳もコンビニで買って飲んだけど、日本の牛乳は安いんだねぇ!
チャン:そう、それで味わいがあるし!
シュウ:あと、台湾人がたくさんいたねぇ。
チャン:中国人もいたけど、ほとんどが年が行った人たちで、わたしたちの世代はみなかった。
モン:うん、若い人はだいたい台湾人だった!

――やっぱり今の時期だから、やめとくって感じじゃないの?
チャン:やめとく、ていうよりも...日本旅行は高め、っていうイメージがあるから。一昨年、わたしも行きたかったんだけど、1万元(現在のレートで約15万円、以下同)かかるといわれてやめたの。
シュウ:1万元出すならヨーロッパに行くよなぁ。
チャン:そう、ツアー料金に1万元かかって、その上で日中関係が緊張したらやっぱり諦めるわよね...あと個人で日本のビザを取るには「不動産権利書」が必要なのよね。わたしたちは社員旅行ツアーだったから3万元(約45万円)の残高証明の他に、半年分の口座出納書を出せばよかった。きちんとした収入のある仕事についていることを証明するためのもの。
モン:(個人旅行なら)旅行会社にさらにデポジットを払わないといけない。
チャン:もしわたしたちが日本で姿を消したりしたら旅行会社が一人あたり10万元の罰金を払わされるから、そのデポジットを先に預けるの。わたしたちの残高証明3万元もツアービザだったから。個人ビザなら5万元(約75万円)分なんだって。
モン:社員旅行だから個人旅行よりは手続きは簡単だけど、個人旅行だと不動産所有証明を提出してそれが一時預かりになるんだよ。でも、ぼくらは社員旅行だったからその必要がなかった。その代わりに半年間の口座出納表を出したわけ。

――どういうスケジュールだったの?
チャン:1日目についてから歌舞伎町、そして2日目は銀座を回って、その後そのまま富士山のそばに泊まって、3日目に山梨、ぶどうの産地ね。4日目に奈良に移動して、夜は大阪泊り。5日めに神戸と大阪を周って空港のそばに泊まって翌日帰国。もう一度機会があったら、次回は絶対に東京には行かない。奈良とか大阪とかがよかったなー。
シュウ:奈良の農民は幸せだよな~

チャンさん.jpeg日本では目にしたものがすべて美しくて清潔で、大好きになった。一番印象に残ったことといえば奈良公園の鹿。餌を狙って、年齢も肌の色にもかかわらずに誰にでも甘えてきた。鹿と奈良公園近くの春日野飯店でランチを取る私達を迎えに来てくれたおばあちゃんと同じように、温かい真心を感じた。by チャンさん

――どうして?
シュウ:周りの環境がすばらしいし。
チャン:そういえば、奈良公園の鹿! シュウさん、鹿に餌をねだられて服に噛み付かれて破れちゃったのよね(笑)。あと春日大社のそばの春日苑というレストランの女将さんがわたしたちを出迎えに来てくれて、わたしたちを店まで案内してくれたんだけど...
シュウ:彼女、すごく情熱的で、目にしたもの目にしたものをぼくらに教えてくれるんだ。
モン:ガイドが通訳してくれなくてさ、ぼくらは彼女の情熱的な態度に敬意を払って聞き取れるふりしてたんだよね(笑) 彼女はとても嬉しそうだった。
シュウ:そうそう...彼女、もう80歳くらい? ものすごいお年寄りだったんでびっくりした。
チャン:ほら、中国では若ければ若い、そして綺麗な客室乗務員が喜ばれるけど、日本は年季が入った人がビジネスクラス担当なんだよね。年季が入った人が周囲に尊重されるのよ、それを目にした感じだった。

シュウその2.jpeg富士山にて。日本に来たら絶対に行くべきところ。とにかく美しすぎるよ。ぼくがびっくりしたのは路上がずうっととても清潔だったこと。空気もとてもきれいで、日本にいる間、誰もPM2.5のことなんか気にせずに過ごした。by シュウさん

――チャンさんは、「日本に来てから美女を見てない」ってメッセージを送ってきたけど(笑)
チャン:えーそんなこと言ったっけ? でも女性が若い人もお年寄りもみんなお化粧してるのにはびっくり!
モン:神戸と大阪には綺麗な子がいたけどねぇ...繁華街には綺麗な子がいたねぇ。
チャン:キミは銀座に行かなかったから(笑)。あの時、モンくんは靖国神社に行ったの、6人でタクシーに分乗して。
シュウ:ぼくも行きたかったけど、時間が足りなかった...
チャン:靖国神社で扇子を買ったんだけど、買った扇子に「靖国神社」て書かれてるから、税関に没収されるんじゃないかってえらくびびってたのよね(笑)。
モン:だって...(とポケットから、靖国の文字が入った包装紙を取り出す)こんなふうにはっきり名前が入ってるんだから、帰ってから税関で荷物を開けさせられて没収されるんじゃないかと...
チャン:初めての海外旅行だったから、心配も大きかったのよね。

――靖国神社の感想は? 中国の人で「気分が悪くなった」という人が多いけど。
モン:...別になんてことなかったよ。あそこには日本が関わった戦争のものがいっぱいあって、別に日本と中国のことだけじゃなかったからね。日露戦争とか歴代の戦争の展示があった。見て分かったのは中国とのことはあの歴史の一部だけなんだな、てこと。
チャン:北京からついてきた旅行社の随行員も現地のガイドも、「ツアー客の中で靖国に行った人は初めて」と言ってた。中国からのツアーはそのスケジュールに靖国神社を入れてはいけないことになってるからねぇ。
モン:もし混ぜたらツアーは中止になるからね。だから自由時間で行ってきた。

モンその1.jpeg銀座近くのコンビニのレジのそばにあった、四川雅安地震被災者のための募金箱。中には小銭が入ってた。これは一つの例だと思う。地震の多い国では心の中で共鳴するものがあるんだろうね。中国国内ではこんな光景は滅多に目にしないけど。by モンさん

――で、みなさんの日本旅行の「収穫」は?(笑)
チャン:アウトレットの店でもたっぷり買い物した!
シュウ:ぼくは「コーチ」のバッグを買った。もともと別に欲しいものはなかったんだけど、目にしたもので「いいな!」と思ったから買った。
チャン:あの日ちょうどコーチのディスカウントデーだったのよね。半額の上にさらに30%引き!
シュウ:ぼくが買ったバッグは中国なら3000元くらい、それを約1100元くらいで買った。
モン:消費税の関係もあるね、日本は5%だけど、中国は明らかなだけで17%、影の分も含めるともっと高いはず。

――消費税? 中国の消費税って...ああ、増値税のことね。
チャン:そう。中国の税は製品最終価格の中に含まれているけれど、日本はレシートに別に記載されるでしょ?
チャン:わたしたちは消費税還付も受けられるし!
シュウ:あと日本車を比べても中国と日本じゃ質はぜんぜん違うって気がついた。ぼくね、触ってみたんだよ。日本の日本車の鋼板はとても堅かった。中国でも同じニッサンの車に友達が乗ってるんだけど、ぎゅっと押さえると凹むんだよね。
チャン:良かったわねー、車の持ち主がアラームつけてなくて(笑)

――日本はあんまり中国みたいな接触アラームつけている人はいないわね...音を出すことに遠慮があるから。
モン:そうそう、日本滞在中クラクションを聞いたのは2,3回くらいだった。日本の道路はとても静か、でも中国はうるさいよね。
チャン:地下鉄でも自分たちの声が大きすぎるな、て気がついた。
シュウ:不思議だったのが、東京の道はとっても狭いのに渋滞しない。たぶん、ラッシュアワーは混むんだろうけど。でも、ラッシュアワー以外でも北京の車は東京より多いよ。それに道だってずっと広いのに。
チャン:わたしがとってもいいなぁと思ったのは、レストランでなにかで席を離れるときにバッグを置いて行っても安全なこと。
シュウ:覚えてる? ガイドのバッグのファスナーがずっと開きっぱなしだったよね。
チャン:そうそう、わたしたちはそれを見るたんびに声をかけたんだけど、彼女はずっと「大丈夫よ、大丈夫よ」って(笑)
モン:あと自転車がわりと自在に置いてあったねぇ。中国ならとっくの昔に失くなってるだろうなぁ、と。
シュウ:だいたいさ、監視カメラがついてないんだもんな、それだけでもう...
モン:中国は自転車っていうのは一番失くなってしまいやすい物品なんだよ。

モンその2.jpeg富士山のトイレにて。中にたくさんコインが入ってた。誰が見張ってるわけでもない、繊細な自覚の心を感じたね。by モンさん

――行く前と行ってからでイメージ変わった?
チャン:わたしは...便利だなぁ、と。いろんな人が「日本はいいよ!」って言うのを耳にしてたけど、一体どこが「いい!」のか分からなかった。行ってみて本当に、「日本っていいわ!」と思った(笑)
シュウ:行く前のぼくの評価は100点だったんだけど、行ったら120点になった(笑)。
モン:日本のものがあんなに安いと思ってなかったな。中国の物価と比べるとずっと安いよ。タクシーと地下鉄は高いけど。銀座から靖国神社に行くのに時間がなかったからタクシーに乗ったんだけど、20分くらいで2000円くらいした。ぼくは1万円分くらい本を買ってきた...

――本? 日本で? 読めないのに?
モン:見ればなんとなくわかるし。そんな文学的なものじゃなくて漫画とか。ぼくは写真に興味があるんで、写真集とかも。あと、日本の教科書みたいなのも。日本で何を教えてるか、知りたかったから。「Newsweek」の歌舞伎特集、あと天皇の家族の特集をしている雑誌も買った。若い時の皇后がとても綺麗に写ってる。
シュウ:そういうの、中国じゃ手に入らないからねぇ...

――日本語もわからないのにこんなに本を買って帰る中国人観光客がいるとは...びっくり。
モン:日本で漫画本を買ってくる中国人は少なくないよ。
シュウ:ぼくの同級生も日本に留学してアニメの勉強をしてる。
モン:友達にいっぱい頼まれてたのが、「ワンピース」のオリジナル本。あと、ぼくが自分のために買ったのは「ドラえもん」、子供の頃ずっと読んで育ってきたから(笑)。
チャン:わたしは「スラムダンク」の中に出ていた高校が実在するって聞いたから行ってみたかったなぁ。

――ビンさん、あなたはアメリカ留学をしたあなたが日本に行ってみて特に感じたことはある?
ビン:日本とアメリカはよく似ている。基本的には同じだけど、細かいところを比べるとアメリカのほうがやっぱりすごいな、と思う。経済的な面ではやっぱりアメリカにはかなわない感じかな。でも個人的に感じたのは、ここに暮らすのはとてもいい気分だろうなと思った。たとえば、まず街がとても清潔なこと。
シュウ:北京の通りとか歩きたいとか思わないもんな、ゴミばっかで。
ビン:うん、埃っぽくてさ。
モン:北京空港と成田空港と大阪空港のガラスの汚れ具合を比べれば明らかだよね(笑)
シュウ:そうそう。空港の中から外の写真を撮ってみたらとても綺麗にとれたのに、北京に戻ってきて撮ったら...
モン:全部灰色(笑) ...あとトイレの匂いとかさ...
シュウ:民族の香り!(笑)
ビン:あと、サービスね、サービスがいい。アメリカのサービスはひどすぎる。といっても、中国よりはマシだけどね(笑)。でも、日本に比べると...比べようがない(笑)

ビンその2.jpg名古屋の平和公園の鐘の前には中国語の説明があった。ぼくと同行者はそれぞれお金を入れて一人一回ずつ鳴らした。ぼくらがそこを離れた途端、他の中国人ツアーがやってきて、何人かが嬉しそうに飛びついて派手にガンガン鳴らしてからそこを離れていった。

――でも観光客が行く店ってある程度サービスいいんじゃないの?
ビン:ぼくは390円のラーメン屋に行ったよ。味は普通だったけど、ニッポンの味だったよ。
モン:中国でラーメンって行ったら一杯が日本円で800円から1000円くらいするからね。
シュウ:ぼくはスーパーでお刺身買って食べた。新鮮で美味しかったよ。
モン:中国のスーパーに比べて、日本のスーパーで売られてるものって新鮮なんだよね。ぼくは中国では生物を食べないようにしてるんだけど、日本では食べても大丈夫だった。

――モンさんは回族(イスラム教徒)だからブタ肉は食べれないんですよね、日本では大変だったでしょ?
チャン:それがねー、彼は「大丈夫、日本のブタ肉は清潔だから!」って言うの!
モン:ぼくはそんなに厳格なわけじゃないんで(笑)。
シュウ:ぼくは日本で何でも安心して食べれたな。
モン:だって直接水が安心できるんだから。他のものは口に入れてもすぐにはわからないかもしれなけど、水はすぐに分かる。
シュウ:うん、水道水、あれはすごい。1日1回飲んでたけど、東京と他の都市では味が違うんだね。

――そんなに飲んだの(笑)
シュウ:あとねぇ、街を歩いていて気がついたのはゴミが少ないなぁってこと。
チャン:ゴミ箱も見当たらない!
シュウ:ぼくは吸殻をポケットに入れてずぅっとゴミ箱を探して歩いたんだよ。北京はあっちこっちにゴミ箱があっても路上はゴミだらけなのにねぇ(笑)。
チャン:ゴミを分別するのはわかったけど、日本語が読めないからゴミ箱覗きこんで何が捨てられてるのかを確認して...(笑)
シュウ:タバコを吸うのは面倒だったな。バスを降りてまずは一服。大変だった(笑)。あとね...日本語を覚えた。
ビン:「イクラデスカ?」
シュウ:「コレワ?」(笑)
モン:ぼくは「スミマセ~ン」
チャン:わたしは直接英語で話したわ!
ビン:ぼくも最初は日本語でやったけど通じなかったから止めた!(笑)

シュウその1.jpg大阪の繁華街にて。偶然、日本の政治団体の街頭演説に遭遇した。中国だとこういうことは警察に止められると思う。でも、ぼくが日本で目にしたのは、街行く人達の邪魔にならないように道を空けていること、そして演説者は話し終わると彼らの支持者一人ひとりと握手をしていたこと。ぼくは今に至るも自分の国のために投票したこともないし、指導者の一人にも会ったことがない。by シュウさん

ビン:あと、ぼくが日本で見た光景で印象的だったのは、街頭の政治活動。
モン:大阪だったよね。買い物を終えて他の人を待ってる間に目にしたんだけど、街頭で誰かがマイクをもって喋ってる。それを100人あまりの人たちが囲んで聞いていた。最初は何をしてるのか分からなかったんだ。マイクをもった人が喋り終わったら、聞いていた人たちが彼のところに寄って行って、一人ひとり握手してるのを見て、あれは選挙活動なのかな、と。
ビン:自民党の候補者だったねぇ。感心したのは、候補者も支持者も歩道の真ん中を空けて、通行人のじゃまにならないようにしていたこと。あれはすごいなぁ、と思った。公徳心だよねぇ。
シュウ:ぼくらは自分たちの政治家すら会ったことないからなー。
チャン:わたしは京都大学そばのショッピングゾーンで舞妓さん見れたのもラッキーだった。ガイドさんも初めてだって言ってたし、滅多に見れるものじゃないらしいんだけど。
シュウ:京都ではよく和服を着ている人も目にしたね。他のところでも目にしたけど、京都はあっちこっちに和服を着ている人がいた。
モン:ぼくの印象に残ってるのは、東京の地下鉄はむさ苦しかったこと。男の人は50歳くらいの人たちでも同じような背広を着てて、同じように片手で持つ黒いバックを持っててさ。なんかとてもむさかった。中国は人が多くて暑苦しいけど、彼らみたいにおんなじ格好した人を見ることはない。日本は経済的にも発展してるのに、なんだかみんな、おんなじ格好をするという厳しい規律が守られてるんだね。
ビン:うん、あれはなんか怖い感じがしたね。小学生もそんな制服着てたしね。
モン:小学生ならまだ可愛いけど、40、50歳にもなってまだネクタイ締めて...てのを見て、ここでの生活は息が詰まりそう、だと思った。
モン:子供の頃から大人になるまで制服に慣れてるんだね。

――でも、今年の初めに日本を訪れた四川省の作家、冉雲飛さんが帰ってきてとてもいい事を言ってたんだよね。「日本をご覧。子どもたちは自分の身丈にあった制服を着ている。背の高い子も太った子も自分のサイズに合ったものを着ている。中国はどうだ。ほとんどが制服というより体操服。それもおおまかなサイズしかないからみなぶかぶか。そんなんで彼らは教育の場で自分が尊重されていると感じられるだろうか? 身丈にあった制服を着るということはつまり、その個人個人の違いを尊重するということだ。それをやらない我が国の教育が子供に尊重など教えられるわけがない」って。
ビン:気持ちの問題だよね。いいとこ突いてるな。
チャン:ガイドが言ってたんだけど、日本の幼稚園は子供2、3人に先生が1人ついていて、子供がいつ水を飲んだか、何度トイレに行ったか、そういうことをきちんと記録しておいて帰宅するときに父兄にお知らせしてくれるんだって。そしたら親も安心するでしょ。
モン:ぼくらが乗っていたツアーバスの運転手もどこかの目的地につくたびにまずノートを取り出して何かを記録してた。そしてそれを終えてからドアを開けてぼくらを下ろし、車を駐車場に停めに行ってた。その動きはとても自然で、きちんとしたルールがあるんだなぁ、て感じたよ。

チャン:...来年の旅行はどこに行こうかしらね?

――北海道とか?
チャン:グッドアイディアね、でも高いんじゃないかしら。映画「非誠勿擾」(邦題:狙った恋の落とし方)の大ヒット以降、ものすごく人気だし。今のタイも同様。
モン:でも、タイは観光地だけど日本に行くのとは違うな。その土地を理解する目的がないなら行っても意味ないし。
シュウ:日本は文化財をとても大事にして保護してるのがいいよね。唐代のとかさ。中国じゃ見ることはできないよ、あんなのは。
モン:ぼくは日本の戦国時代に興味が有るんだけど、豊臣秀吉ゆかりの場所とか当時の天皇の住まいとか...
シュウ:今回はまだツアーだったから良かったけど、日本のビザを個人で申請するのは大変なんだよな。
モン:特にぼくみたいな人間はまだ自分の家ももってないから資産証もないし、個人申請なんて絶対にできない。でも、今回一度日本のビザを取って帰ってきたから、次回はずっと取りやすいはず。
シュウ:中国に近いいくつかの国の中で、日本のビザが一番取りにくいからね。

――だいたい、今回韓国って話は出なかったの? あんなに韓国ドラマとか流行ってるじゃないの!
シュウ:韓国に行くのはね、ほとんどが韓国ミーハーの連中! ぼくらの周囲にはほとんどいない。
ビン:韓国の歴史だって見るところはある。でもね、日本に行くのが大変だっていうことはつまり、日本のほうが発展してるってこと、もっともっと見るべきところがあるってことさ。

――今も日本は「発展したところ」?
ビン:韓国よりはずっと発展してるよ!

――今の中国と比べても?
ビン:中国なんか比べられるわけ無いよ! 上海や北京とだけ比べても意味は無いしね!

――でもあなた方はそういう中国の「発展」を味わっているわけでしょ?
シュウ:でもね、GDPの数字を信じる人なんてそれほどいないんだよ。
ビン:実際には社会の成熟度とか、人と人の関係とかの点で...たとえば信号の設計の仕方からしても日本は人間味があるわけ。日本では人が車道を横切るときもとてもスムーズだ。北京はどうだ、道を横切るのも大変。人間的な視点からしてもう全然違う。アメリカもそうだった。
モン:あと、日本はどこに行っても汚れた車って見なかった、1台も。
ビン:日本に行く前は、傍観者だったから日本の「精神」ってのは自分には関係ないと思ってた。それを考えることもなかった。でも一旦日本に行ってみて、その環境の中で「そこに暮らす日本人の気持ち」になってみたら全然違ったね。
チャン:例えばわたしも東南アジアに行ったことがあるからっていう程度で新鮮味を求めて日本に行ったわけだけど、実際に行ってみて驚いたわ。
モン:ぼくの周囲には日本に行きたいと思っている人10人のうち7人がアニメが好きな人。残りの3人は、一体日本はどういう国なんだろう、って好奇心を感じてる。
ビン:アニメ、それとAVかな。

――でも、日本に行ったからってAVそのものの光景が見れるわけじゃないでしょ?
ビン:見れなくてもいいんだよ、その文化の近くに自分がいるってことが感じられれば。そして気兼ねせずにそれを買うことが出来る。
チャン:ホテルのテレビのチャンネルをひねったら、1日1000円で見れるしね(笑)。
ビン:あとコンビニに行ったらどこにでもそんな雑誌があるし。
モン:アダルト雑誌があるもんね!
シュウ:北京に帰ってきてからコンビニ入ったとき、思わず雑誌の棚のところまで歩いて行ったよ、オレ。で、がっかりした(笑)。
チャン:わたしも帰国翌日に出勤するときに、じっと信号が青になるのを待って道を渡ったの。ふと気づいて、わたしってお馬鹿さんだわ、って思った(笑)
シュウ:空港に着いてエスカレーターに乗った時にも左側に立つやつがいて、「おい、ここは北京だぜ!」って声かけたりしたよね(笑)。

モンさん本.jpg買ってきた本。漫画、雑誌、ニューズウィークに天皇一家の写真集。あとは明治維新、中国の歴史、日本の戦国時代などの本。あと日本の中学校から大学で使われている教科書のようなもの。感じが多いし、絵も豊富だからだいたい読んで分かるし。日本の学生がどんな教育を受けているのかも知りたかったから。by モンさん

プロフィール

ふるまい よしこ

フリーランスライター。北九州大学(現北九州市立大学)外国語学部中国学科卒。1987年から香港中文大学で広東語を学んだ後、雑誌編集者を経てライターに。現在は北京を中心に、主に文化、芸術、庶民生活、日常のニュース、インターネット事情などから、日本メディアが伝えない中国社会事情をリポート、解説している。著書に『香港玉手箱』(石風社)、『中国新声代』(集広舎)。
個人サイト:http://wanzee.seesaa.net
ツイッター:@furumai_yoshiko

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