コラム

「この名前を与えてもらって感謝」油井亀美也宇宙飛行士に聞いた、「亀」の支えと利他の原点

2025年06月10日(火)22時30分

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油井宇宙飛行士(向かって左)と松﨑乃里子インクリメントマネージャ。松﨑さんは油井さんを「実るほど頭を垂れる稲穂かな」を体現していると評す(6月4日) 筆者撮影

──私たちが驚いたニュースに、「アルテミス計画で日本人宇宙飛行士2人が月に降り立てることが決定した」というものがあります。宇宙飛行士の皆さんは、その話を聞いた時に落ち着かない気分になったりしたのでしょうか。

油井 一般的に言うと、そういう機会が私たちにあるというのは本当に嬉しかったですし、難しい国際調整をしていただいてとても感謝しています。それは日本人の宇宙飛行士全体にある共通の認識だったと思います。

そこで誰が行くかとか、そういうことはあまり考えていないと思いますよ。1つのチームとして誰か代表者が行ってしっかり仕事ができればいいという、チームワークがあるグループですから。


──今回のISS長期滞在に臨む記者会見でアルテミス計画について質問されたとき、油井さんはうわべの優等生発言ではなく、本心から「月や火星を目指す人のサポート役に僕はなりたいんです」とおっしゃっているような気がしたんです。なんかもっと「自分が月に行きたい」というエゴはないのかなと、つい思ってしまったんですけれど......。そのあたりの真意をもう少し詳しくお話ししていただいてもいいですか?

油井 これはやっぱり、グループ長をやらせていただいたのも大きいと思います。日本人がどれだけ宇宙に行く機会があるのかなど今後のことを見据えて考えると、「じゃあ日本として誰が月に行くのが最適なのか」というのは、自分が行きたいという気持ちとは全く別の問題だというのが良く分かるんですよね。

そうして考えたとき、今後、持続的に宇宙開発を続けていくうえで、日本人が活躍をして日本人全体に勇気を与えるためには若い人が行くのがいいのではないかな、というふうに私は思ったんです。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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