コラム

ヒトへの依存度が大きい犬種は? 嗅覚で視覚を補っている? 2022年に話題となったイヌにまつわる研究

2022年12月20日(火)11時20分
イヌ

イヌの嗅覚は、ヒトの数千から1億倍と言われている(写真はイメージです) Capuski-iStock

<進化の進んだ犬種グループのほうがヒトへの依存度が大きいことが明らかに。他にも、今年話題となったイヌとイヌの祖先にまつわる研究を紹介する>

イヌやネコに代表される伴侶動物の存在は、「可愛がるペット」の域を越えて、「大切な家族の一員」という考え方が一般的になりました。2020年以降は、コロナ禍によるステイホームやリモートワークの普及もあって、世話ができる環境になったり「おうち時間」の充実を考えたりして、小動物を新たに家族として迎える人も増えています。

一般社団法人ペットフード協会の「2021年(令和3年)全国犬猫飼育実態調査」によると、20、21年は、1年で約40万匹のイヌと、約50万匹のネコが新たに飼育されたと言います。程なく発表される22年調査の結果でも、同水準が予想されます。

近年は科学の世界でも、人と伴侶動物との関係の歴史を改めて考えたり、伴侶動物の行動の理由を解明したりするための研究が盛んに進められています。今回は、22年に話題になったイヌとイヌの祖先に関する研究を振り返ってみましょう。

ストレスホルモンの遺伝子変異によってヒトに依存するように?

麻布大獣医学部動物応用科学科の外池亜紀子博士、永澤美保准教授らの研究チームは、イヌは進化の過程でストレスホルモンに関わる遺伝子が変化して、ヒトとのコミュニケーションを発達させ、イヌの家畜化を促進させたことを示唆しました。研究成果は、「サイエンティフィック・リポーツ」オンライン版に掲載されました。

研究チームは、一般家庭で飼育されている624頭のイヌに対して、社会的認知能力を調べる2つの課題を与えました。

「指差し選択課題」は、実験者の合図を受けて餌を隠した容器を探させる実験です。ヒトの身振りやコミュニケーションに対するイヌの理解度を測ることができます。「解決不可能課題」は、自分では取り出せない餌に対する行動を観察します。イヌが困ってヒトに助けを求めるような素振り(依存度)をどれくらいの頻度でするかを測定します。

イヌの祖先であるオオカミと遺伝的に近いとされる犬種(柴犬、秋田犬、シベリアンハスキーなどの「古代犬種」)と、遠い犬種(トイプードル、ボーダーコリー、ミニチュアダックスフンドなどの「欧米犬種」)のグループに分けて結果を比べると、指差し選択課題ではどちらのグループも理解度は変わりませんでした。けれど、解決不可能課題ではオオカミから遺伝的に離れている、つまり進化の進んだ犬種グループのほうが、ヒトを最初に見るまでの時間が短く、回数も多く、ヒトへの依存度が大きいことが示されました。

2つの課題の違いは、指差し選択課題では「ヒトが一方的に与える指示に対する受動的な理解力」を見ているのに対して、解決不可能課題では「問題解決とヒトとを結びつけて、イヌがヒトに能動的に助けを求める力」を検査しているところです。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

上海市政府、データ海外移転で迅速化対象リスト作成 

ビジネス

中国平安保険、HSBC株の保有継続へ=関係筋

ワールド

北朝鮮が短距離ミサイルを発射、日本のEEZ内への飛

ビジネス

株式・債券ファンド、いずれも約120億ドル流入=B
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story