コラム

人類の意識進化を促進。脳への直接刺激技術にブレークスルー、10年以内の実用化目指す=TransTech2019から

2019年12月06日(金)14時20分

「恐れ」や「欠乏感」のない意識状態になるよう脳の回路を組み替えられたら Ildar Imashev-iStock.

<超音波によって脳回路を組み替えれば、鬱や精神疾患の原因となる「恐れ」や「欠乏感」を感じなくなる?「自己実現」のさらに上、「自己超越」への到達も可能に>

エクサウィザーズ AI新聞(11月23日付)から転載

今年は人類の意識の進化にとってブレークスルーの年だった、とTransTech Conferenceを主宰する心理学者Jeffery A. Martin博士は語る。まだ技術的に不安定で政府の認可プロセスなどに時間がかかるが、経会陰超音波による脳への直接刺激が人類の意識進化に有効であることが分かったという。同博士によると、瞑想などの長期にわたる修行をしなくても、この技術で「恐れ」「欠乏の心」から「満たされた心」に簡単に移行できるようになるほか、てんかんやアルツハイマー病などの神経疾患の治療にも役立つとしている。5年から10年以内の実用化を目指すという。


Yukawa191206_1.jpg

今年の同カンファレンスに登壇したMartin博士は「昨年までのカンファレンスで『自己超越が可能なテクノロジーが今現在、地球上に存在するのだろうか』とたずねられると、『ノー』と答えていた。今年は同じ質問に『イエス』と答えることができる。自己超越を追求する研究者にとって、非常に大きな1年だった」と言う。


Yukawa191206_3.jpg


「自己超越」とは、心理学者アブラハム・マズローが提唱した欲求5段階説の一番上の段階である「自己実現」の、さらにその上に存在する段階で、「恐れ」や「欠乏感」を超越した意識状態のこと。マズロー自身晩年になり、その意識状態の存在に気付いたという。(関連記事:マズローの欲求5段階説にはさらに上があった。人類が目指す「自己超越」とは

とは言うものの、大自然の中で身を守るためには「恐れ」の感覚は不可欠だし、ゴールに向かって進むための推進力として「欠乏感」は有効だ。ただ現代社会においてライオンに襲われる可能性はまずないし、ゴールを追い続けないとならない人生ではなかなか幸せになれない。

「満たされた心」に留まることは不可

進化の過程では有効だった「恐れ」や「欠乏感」が、現代社会はそれほど有効ではないどころか、鬱などの精神的疾患の原因になってきているわけだ。

Martin博士によると、「恐れ」「欠乏感」への対処方法は3つある。1つは、「恐れ」「欠乏感」に駆り立てられるままに生きること。「この仕事につけば幸せになれる」「この人と結婚できれば幸せになれる」「この車を買うことができれば幸せになれる」「貯金がこれだけ貯まれば幸せになれる」などなど、ゴールに向かって進もうとする生き方だ。同博士によると、現代人のほとんどがこの生き方をしているという。

ただ問題は、1つのゴールに到達しても「満たされた心」の状態でいられるのは一時的。脳の中に「恐れ」「欠乏感」への回路がある限り、すぐに別のゴールを見つけては、それに突き進まなければならない。いつまでたっても恒常的な「満たされた心」にはたどり着けないのだという。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 7
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story