コラム

「白鵬は、もう相撲に関わらないほうがいい」...モンゴル人力士への「差別」が他人事ではない理由とは?

2025年06月09日(月)12時10分

白鵬と朝青龍に対する角界と日本社会の接し方は、私の経験と完全に一致する。

白鵬と朝青龍、あるいは日馬富士も含めて、彼らに対する批判は大体、日本人力士を圧倒していた頃に高まる。白鵬の場合は歴代最多の優勝を決め、前人未到の記録を創出しようとした際に、あの手この手で何とかして倒そうと、声が上がった。

いわく、品格に問題がある、行動が横綱として不適切だ、日本の伝統を無視している......。しかし、この域を超えた批判はない。


品格は道徳観念の1つで、民族と地域によって異なるし、同じ民族でも時代によって千差万別だ。行動となるとなおさらで、「日本的伝統」といっても、相撲自体がユーラシア大陸に淵源する歴史的競技だとの見方もある。

また、「相撲は神事」だとも主張されるが、神事なら金銭的な営為は禁止すべきで、現代国家が定める政教分離の原則とも抵触する可能性がある。つまり、「神事」の強調は、他国や他民族出身者に特定の宗教への服従を強制しているきらいがある。

品格と伝統を用いた批判は嫉妬の域を超えたものではない。日本人が作った記録を「外人」に破られたくないだけの、素朴な嫉妬心にすぎない。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

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