World Voice

powerd_by_nw

南米街角クラブ

島田愛加|ブラジル/ペルー

ペルーで起こったデモ行進 #メリノは私の大統領じゃない

首都リマ、セントロ地区でのデモ行進の様子(2020/11 Photo by Italo Bracamonte)

11月17日、ペルーの新しい大統領の就任式があった。
なんと、一週間の間に大統領が二度変わる事態である。

事の始まりは大統領であったビスカラ氏の罷免が決定したことだった。
コロナウイルスによる緊急事態宣言が発表されて以降、ビスカラ氏の支持率は高い時で80パーセントを超えていた。
ペルーの感染者数は南米でワースト2位、死亡率は最悪にも関わらず、国民が大統領を支持していたのだから、どれだけビスカラ氏が真剣に事態に向き合っていたのかが伝わってくる。
忘れてはならないのはビスカラ氏は贈収賄疑惑で辞任したクチンスキ氏の代わりに就任した大統領である。

9月、ビスカラ氏はモクゲア州知事から副大統領時代の仲間の女性を優待人事したことにより、その家族が不当な利益を得たことに対する検察捜査が始まった際に女性がビスカラ氏にかけた通話の盗聴テープが流出、検察捜査妨害の疑いをかけられた。
しかし、同月に行われた罷免決議は否決される。

それでも議長のメリノは諦めず、11月にモクゲア州知事時代の公共事業の際に日本円で約6700万円の賄賂を受け取ったという汚職疑惑を持ち出し、ビスカラの大統領続行は"倫理に反する"と再度罷免決議にかけられた。
ビスカラ氏は容疑を否定、国民も「辞任する必要はない」と考える意見が多かったにも関わらず、議会は賛成多数で罷免決議を行った。
来年7月の任期まで残りわずか、まだビスカラ氏の汚職疑惑が確定しないうちの罷免だった。
国会議員の半数が汚職疑惑捜査中で、自分の火の粉を振り払う意図もあったとされている。
これに対し、国民の83パーセントは「議会による政治的または個人的な判断だ」と主張し、デモ行進が始まる。
また兼ねてから支持率が低かった議長のメリノ氏が暫定大統領となったことにより、デモは「メリノ大統領就任に反対」が最も大事な主張となった。

【ビスカラ氏罷免可決から、サガスティ氏が大統領に就任するまで】
11月9日(月)議会にてビスカラ氏の罷免可決、抗議のデモが始まる
11月10日(火)メリノ氏が大統領に就任し、S&P/BVLペルー総合株価指数は6.5パーセント安、ペルーソルは対米ドルで1.2パーセント安となり、デモ参加者も増加
11月11日(水)~13日(金)全国各地で大規模なデモ行進
11月14日(土)デモに参加していた2名の青年が銃撃にて死亡
11月15日(日)メリノ氏が大統領辞任発表(同日、国外逃亡論もささやかれ、リマのホルヘ・チャベス国際空港は閉鎖)
11月16日(月)議会はサガスティ氏を暫定大統領に選出
11月17日(火)サガスティ氏が大統領に就任

統計によると、デモ行進に実際に参加したのは国民の13パーセント、行進には参加しなかったが何らかの形でデモに参加したのは73パーセントに及んだ。(その他はデモに反対8パーセント、興味がない5パーセント、必要がない1パーセント)
デモ参加者はミドルクラスが多く、一番参加率の割合が高かったのが【ミドルクラス、24歳以下の女性】だった。
友人曰く、貧困層が政治に対する関心が低い理由は、十分な教育が受けられず、複雑な仕組みを理解することが困難であることが言えるそうだ。
しかし、今回のデモに関しては問題が明確だったため、これまでに起こったデモよりも多くの人が参加したとみられる。
社会経済的階級に関わらず、多くの人が決まった政党を支持していない傾向があり、国民が思う"国の最大の問題"は経済や教育を抑えて政治が第一位となっている。

今回のデモは、間違いなくパンデミックも加担しているだろうが、ペルーはこれまで何度も国家の危機を迎えている。
更には近年ベネズエラからの移民も増え、国が崩壊することの恐ろしさはそれを経験していない若い世代にも他人事ではなくなっているようだ。

ペルーの政治、デモに関して詳しくは専門家が書いてくれると思い、私にできることがないかと考えた結果、実際にデモに参加したペルー人の友人にインタビューをすることにした。一人の国民の意見として読んでほしい。
以下は、彼が話してくれたことを日本語訳したものである。

---------------------------

私は普段から政治に関心があって、これまでに何度かデモに参加したことがある。
少し前のペルー人はどちらかというと内向的で、警察を怖がったり、デモに対してとても臆病だった。
ただ、今回は見過ごすわけにはいかなかった。
本当に多くの人が行進に参加したけど、特に若い人が多かったように感じた。中にはよく理解せずにただ怒りを込めて参加しているような人もいたと思う。
ペルーは今でも貧しい生活をしている人が沢山いるけど、これまでにクーデター、ハイパーインフレ、テロに悩まされ、90年代からの成長によって、多くの人が最貧困層から抜け出すことができた。
だから世界的には発展途上国だけど、国の長い歴史から見たらここ20年は落ち着いていた方なんだよ。
でも今回はパンデミックの影響で下降している経済、議会への不信感や怒りから、国がまた危機に晒されるような雰囲気になっていた。
コロナウイルスに感染することよりも、国が崩壊することの方が怖い。
メリノが大統領になった時点で、そうなるシナリオが見えたよ。

デモに参加すると言っても、ただ道路に飛び出すわけじゃない。
今回のデモは、TwitterやTelegram(インスタントメッセージシステム)で拡散された。ハッシュタグ #merinonoesmipresidente(メリノは私の大統領じゃない)などを使ってね。行進に参加しなくても、インターネット上で訴えたり、自宅のベランダから鍋を叩いて参加した人も沢山いた。
私は12~14日の3日間、首都リマのセントロで行われたデモに参加したんだけど、初日は計画が不十分で混乱した。
デモ行進はグループに分けられて、先頭のグループは警察による催涙ガスの攻撃を受ける可能性が高いから、それに耐えられるようにガスマスクやゴーグルを身に付けたり、盾を持ったりする。
続いて救護班、未成年者、音楽隊や行進を盛り上げる人達と、並ぶ順番が決まっている。グループには1人ずつ旗を持った誘導係がついて、参加者が列から逸れないようにする。
催涙ガスがかかってしまった時の為の応急処置ができるように水などを運ぶ担当もいたよ。
基本的には平和的なデモをするよう心掛けていたけど、とにかく警察がデモ参加者を解散させようと必至だったんだ。
そのために護身用にショットガンを持ち歩く人や、警察の対応から逆上してしまう人も少なくなかった。そういった人たちが興奮して無防備なまま先頭のグループに紛れ込んでしまい、催涙ガスを浴びてしまったりしたんだ。
私自身は第二グループに参加して、危険な目に遭うことはなかったけど、友人の女性が催涙ガスを浴びて、痛みと吐き気で辛そうにしていたよ。
14日土曜日は更に多くの人がデモに参加していたけど、デモは計画的に行われた。
それでも警察による催涙ガス攻撃は悪化して、それを避けるために何度もルートを変えなければならなかった。
この日に2人の犠牲者がでてしまったし、100人以上の負傷者がでた。中には逮捕された人もいる。

翌日、メリノの大統領辞任表明によって、デモはいったん落ち着くことになった。
でも、国民はこれに満足していない。
サガスティはビスカラの罷免に反対票を投じていたこと、メリノよりも経歴的に優れているということで、就任に対するデモに発展することはなかったけど、議会は変わらない。
また何か起こったら、すぐにデモが起こると思うよ。
国民も、自分たちがどれだけ力を持っているか、今回それを理解したと思う。
(2020年11月18日)

---------------------------

2020-11-20-024050035.jpg

命を落とした2人の青年を死を悼む様子が至る所で見られた(2020/11 Photo by Italo Bracamonte)

彼は「まるで映画のようだった。」と電話を締めくくったが、実際にリマのセントロ地区をしっている私には全てがリアルに伝わってきた。
セントロ地区の広場を訪れた時、「ペルー国民は何か起こったらここに集結するんだよ。」と話してくれた友人の言葉を思い出す。まさかこんなにも近いうちにその日が訪れるとは、思ってもいなかったので正直ショックを受けている。

興味深いのが、デモに参加した人たちの多くが、若い人たちだったということだ。
別の友人曰く、ペルーは長い間テロに苦しまされ、その時代を経験している世代にはそれがトラウマになっている人が多い。(1996年の在ペルー日本大使公邸人質事件が記憶にある人もいるだろう)
しかしミドルクラスの若い世代は、積極的に政治に介入する傾向があるそうだ。
今回のデモの呼びかけにもあったように、それらはインターネットを介して構成、組織化されている。
インターネットの普及により、自分の意見がより気軽に発信できることになって、同じ意見を持つ人同士が集まりやすくなったのもあるかもしれない。
この記事を書いている間にも、インタビューをした友人から「今週の土曜日に議会に対するデモ行進が開催されるってチラシが(インターネット上で)まわってきたよ!」と連絡があった。

【引用】
¿Quién es quién en el Gabinete de Transición?
ペルー株と通貨が大幅安、汚職疑惑で議会が大統領罷免決議案を可決
【協力】 Italo Bracamonte, リマ在住M.M様

 

Profile

著者プロフィール
島田愛加

音楽家。ボサノヴァに心奪われ2014年よりサンパウロ州在住。同州立タトゥイ音楽院ブラジル音楽/Jazz科卒業。在学中に出会った南米各国からの留学生の影響で、今ではすっかり南米の虜に。ブラジルを中心に街角で起こっている出来事をありのままにお伝えします。2020年1月から11月までプロジェクトのためペルー共和国の首都リマに滞在。

Webサイト:http://www.aikashimada.com

Twitter: @aika_shimada

Ranking

アクセスランキング

Twitter

ツイッター

Facebook

フェイスブック

Topics

お知らせ