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ラッシャー貴子|イギリス

夏のオペラは緑の公園で、オペラ・ホランドパーク

 最近はオペラハウスでもドレスコードにうるさくないけれど、オペラ・ホランドパークでの服装は基本カジュアルで、ジーンズ姿も珍しくない。スーツ姿の紳士、サンドレスをお召しのマダムもお見かけして、それはそれですてきだ。でも客席には必ずコートや羽織るものが持ち込まれる。テントの中といっても、緑に囲まれた公園では日が暮れると夏でも驚くくらい冷え込むからだ。わたしは毎年、上にコートやジャケットを羽織ったまま、後半には自分で持ち込むブランケットをひざにかけている。だから服装は防寒をいちばんに考えて決める。

 先ほど書いた予約制のピクニックは便利でよいけれど、なかなかのお値段になるし、席数にも制限があるので、劇場付近の公園やベンチで持参した食べ物を広げるカジュアル派も多い。予約ピクニックの経験はわたしはないけれど、食べ物持参のピクニックをしたときには、オペラだけでなく、夏の夜そのものを楽しんだ気がした。日が長い夏のロンドンでは、開演時間の午後7時半はまだまだ明るい。芝生に座ってサンドイッチをほおばりながら、仕事帰りや犬の散歩で公園を歩く人をながめたり、風に吹かれてたりして、いい気持ちになった。晴れていたので、ゆっくり暮れていく太陽や金色に染まる公園を見られたのもいい思い出だ。

オペラ - 5.jpeg

オペラ・ホランドパークの劇場付近。クリケットの試合があったり、子どもが遊んでいたり、若者が寝そべっていたりと、いつも人がいる人気の公園だ。開演後は、無料のオペラが彼らのバックグランドミュージックになる。筆者撮影

 劇場の入り口前は広い緑地になっていて、たまに開演前にクリケットの試合をしている。なにせいつまでも明るいので、この試合はオペラが始まっても続くことがあり、19世紀の悲劇に浸っている最中に突然、わーっと歓声が聞こえたりする。公園に放し飼いされているクジャクが、オペラにお構いなく大きな鳴き声をあげることもある。それがまた、羽を広げたあの美しい姿から想像もつかない「ぷわーー!」というとぼけた声で、思わずずっこける(初めて聞いたときには何が起きたかわからなかった!)。

 こういう野外イベントならではのアクシデントは、もはやオペラ・ホランドパークの名物になっている。遊んでいる子どもの叫び声やヒースロー空港に向かう飛行機の音が聞こえても、観客も心得ていて、にやっとするだけだ。客席に広がるこの無言の連帯感も楽しい。公園から何も聞こえてこないと物足りない気さえする。

 劇場で働く方たちの気持ちのいい応対も、オペラ・ホランドパークのなごやかさにひと役買っている気がする。係員にはボランティアもいるそうで、年配の方も多い。席を案内してもらったりパンフレットを買ったりすると、どの人も感じがよく、ちょっとした世間話が始まることもある。事務局に電話をしても、大きな組織にしては珍しくあまり待たされず、しかも機械ではなくて人と直接話すことができる。もちろん電話の相手も親切だ。

iStock-tbradford.jpg

劇場の周りにはお屋敷の名残りがあちこちに見られて、オペラの幕間に散策することもできる。ホランドパークには、他にもバラ園や、日本の皇室の方も訪問された本格的な日本庭園があり、見ごたえたっぷりだ。iStock tbradford

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著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

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