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England Swings!

ラッシャー貴子|イギリス

戦禍のウクライナが優勝、ユーロヴィジョン・ソング・コンテスト2022

 わたしがいちばん好きだったのはモルドバだ。キャッチーな歌詞と明るいメロディー、そこに陽気なアコーディオンとヴァイオリンが加わってノリノリ。楽しそうに歌って踊る姿からおかしみがあふれて、ユーロヴィジョンのお祭り要素が詰まっていた。結果は7位に終わったけれど、過去にも楽しいステージを見せてくれたモルドバにはこれからも注目していくつもりだ。

ユーロヴィジョンのTwitter公式アカウントの投稿よりモルドバの演奏。腰をどっしり低く構えて歌う素朴な様子にどこか懐かしさをおぼえて、ところどころ「ラッセーラー、ラッセーラー」と歌っている気さえしてしまう。この短いバージョンがお気に召したら、上の段落のリンクから全演奏をぜひ。

 ユーロヴィジョンでは、審査員票が入った後に視聴者が演奏後に投票するポイントを加えて優勝を決める。ウクライナは審査員票では4位だったけれど、視聴者から過去最高の439ポイントを獲得して一気に1位に躍り出た。今年は意外にも高得点だった英国もこれには届かず、そのまま逃げ切った形で優勝した。

 予想通り同情票だね、と早まるなかれ。同情票を入れる気持ちも支持するけれど、それだけで終わらせるにはウクライナの曲はとてもよかったのだ。哀愁漂う民謡風のメロディー、それに合わせたウクライナ語でのラップ、左右に振りながら片手で吹く姿が目を引くウクライナの笛、謎の衣装を着たメンバーと不思議なダンス、と、ユーロヴィジョンらしい要素がいい具合にミックスされていたし、楽曲自体も印象深かった。

 カルッシュ・オーケストラが歌ったのは子守唄に乗せて母親を讃える曲で、タイトルの「ステファニア」はメンバーのひとりの母親の名前だ。国営放送BBCは、ウクライナでは今この曲が最前線で毎日流れていると伝えて、兵士が口ずさんでいるところをニュースで流していた。また、「母の姿と祖国を思う気持ちが重なる」「みんなが歌っている」「ヨーロッパ全体とウクライナをつなぐ曲」「この曲を通じてウクライナの現状に興味を持ってほしい」「ウクライナに音楽や文化があることを世界に知らせたい」というウクライナの人々の声も伝えている

 ちなみに、ユーロヴィジョンでの演奏とは別に、「ステファニア」には公式動画がある。廃墟と化したウクライナ各地で撮影されたこの動画では、はぐれた子どもを家族に送り届け、また戦場に戻っていく女性兵士を歌に乗せて映している。直視するのは心が痛むけれど、英語での歌詞も表示されているので、ご興味のある方はぜひ(→こちら)。

ユーロヴィジョンのYouTube公式アカウントの投稿よりウクライナ代表の演奏。ウクライナは演奏後「マリウポリを、ウクライナを助けて。アゾフスターリ(製鉄所)を助けて」と英語で叫んだ。ユーロビジョンでは政治的な発言は失格の対象になるけれど、今回はおとがめなし。今年のユーロビジョンではヨーロッパ全体がウクライナを支援していることをひしひしと感じたので、これを失格にしたら大ブーイングになったのかなと思う。政治を持ち込まないユーロヴィジョンとはいえ、プーチンに割と寛大な態度を取るドイツととフランスが最下位とそのひとつ上に終わったのも、政治的な影響があるのでは? と言われている。

Profile

著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

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