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ラッシャー貴子|イギリス

会うべきか、会わざるべきか - コロナ禍のクリスマス

政府はきっと、クリスマスに家族に会うのを禁止すれば規則を破る人が続出すると予想しているのだろう。違反者が勝手なことをするよりはゆるい規制を設けた方がまだまし、と。でも、医療の専門家はこのクリスマスの規制緩和を「軽率」と批判している。それにコロナを無視して買い物に出かけた人が多いことを考えると、クリスマス中の規則を自主的に曲げる人が出るのは想像に難くない。「3世帯までだけど、ちょっとぐらい増えてもいいよね」とか、「本当はいけないけどクリスマスらしくないからゲームやっちゃおう」いうように。さらには、この国の文化の「会う」には感覚的にハグやキスが含まれている気がするから、実際に会ったらハグだってついしてしまいそうだ。おじいちゃんやおばあちゃんに「ハグもしてくれないの?」と言われて、面と向かってノーと言うのは、会わないことより悲しいかもしれない。

今年は大変な年だったから、クリスマスぐらい楽しく過ごしたいという気持ちはよくわかる。わたしだってそう思うし、わたしもクリスマスは大好きだ。でも、ここで感染がまた広がったら、これまでの我慢は水の泡になっちゃうじゃない?

クリスマス2020 - 1.jpg

(家の外を飾る家はアメリカほど多くないが、たまに見かけるとにんまりしてしまう。筆者撮影)

そうこうしているうちに今週、ロンドンも警戒3段階のうちの最高レベルに格上げ(格下げ?)されてしまった。外食はテイクアウトだけで店内の飲食は全面禁止、不要不急の外出も避けることになった。クリスマスの規制緩和も見直されるかと思いきや、ジョンソン首相は今のところ、「規則はそのまま、でも集まるのはできるだけ少ない人数で、できるだけ短い時間で」と呼びかけただけだ。クリスマスって人の命より大切なのかな。もしかして政府は迫りくるブリグジットのことで頭がいっぱいで、コロナのことを真剣に考えていないんじゃないかと疑いたくなる。クリスマス中に感染が広がり、年明けにふたたびロックダウンという噂がますます真実味を帯びてくる。

政府のこの判断を、わたしのように「ダメじゃない?」と受け止めた人もいれば、「あー、よかった、クリスマスはいつもどおりにできるんだ」と安心している人たちもいる。そして家族の間で意見が一致していないと、これが困ったことになる。

たとえばわが家の場合。今年はかなり早い時期から、夫の娘のところに行くことになっていた。以前にこのブログでも書いた、今年結婚したあの娘だ。そしてコロナ禍の規制に振り回されながらも強い意志で夏に結婚式を決行した彼女だからこそ、はっきりと禁止されない限り、「クリスマスはいつもどおり家族で」と信じて疑っていない。うーむ。

クリスマス20 - 1.jpg(道端に停まっていたロンドンタクシーのブラックキャブ。タクシーも状況は厳しそうだけれど、クリスマスの飾りで景気づけかな。筆者撮影)

自分で言うのもナンだけれど、夫の家族とはかなりうまくいっていると思う。特に上の娘とは旅行もずいぶん一緒にしたし、グチも聞いているし、その子どもたちも何度も預かっていて仲良しだ。だから彼らに会うのは嬉しいし、英国式のクリスマスを過ごすのも大好きだ。

それでも、今年はどうだろうと迷う。冬だからたぶん窓を閉めたままの部屋で(開けっ放しで寒くてもそれはそれで困る)、いつにも増して近い距離で何時間も一緒に食べたり飲んだり話したりすることになる。孫たちやほろ酔いになった娘はきっと別れ際にハグしてくるだろう。それをわたしは目の前で断れるかしら。ノリの悪い外国人だと思われないかしら。娘の家族とは今年に入ってからピクニックや散歩で何度か会っているのだし、「今年はコロナだから会えないね」ではいけないのかしら。

夫は「どっちでもいいよー」とのんきなものだ。でもわたしが行きたくないと言ったら自分も行かないと言い出すだろう。だってほら、英国人にとってクリスマスを一人で過ごすのはわびしいことだから、妻をそんな目にあわせるわけにいかないと考えそうだ(わたしは一人で全然まったく大丈夫なんですけど)。そして、わたしのせいでパパがクリスマスに来ないとなれば、表向きは「よくわかるわ〜」なんて言いながらも、娘はきっとわたしを恨むだろう。彼女はパパが大好きなのだ。そしてわたしは彼女に恨まれるのはいやなのだ。

感染を広げる(かもしれない)ことはしたくないし、娘に恨まれるのも困る。クリスマスに娘に会うべきか、会わざるべきかで、もう何週間も悩んでいる。決断はわたしにかかっているのだ。「今年のクリスマスはZoomにしましょう」と義両親の方から言われたという友人がうらやましくてたまらない。ああ、クリスマスまであと8日。

クリスマス2020 - 7.jpg

(外から見られることを意識した窓辺の飾りがとても好きで、つい窓をのぞき込んでしまう。このお宅はブラインドの向こうに少しだけクリスマスツリーが見えていた。筆者撮影)
*おまけ*
クリスマスに向けて特別の規制を設ける話になると、「この国にはキリスト教以外の信者も多いのに、クリスマスだけ特別扱いするのは間違っている。ヒンドゥー教のディワリ(新年のお祝い)も、イスラム教のラマダン(断食月)も、今年はいつものように祝えなかったのに」という声を少なからず聞いたのは興味深いことでした。数ではキリスト教徒が多いとはいえ、旧植民地の関係で他の国からの移民を国として積極的に受け入れた歴史もある英国。その移民の子どもたちは英国生まれ英国育ちの立派な英国民ということを考えると、この社会の複雑さを思わずにはいられません。実際には、クリスマスには学校も職場も休みになるので、全体としてクリスマスは宗教行事というより季節行事として機能しているのだとしても。
 

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著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

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