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NYで生きる!ワーキングマザーの視点

ベイリー弘恵|アメリカ

NYコロナ禍でのリモートクラス 2〜現場で働く大学教授にインタビュー

©NY1page.com LLC NYマリオ・M.クオモ知事橋(NY現州知事の名のついてる橋周辺は、見晴らしがよいからか、デートスポットとしても人気の場所だ。去年の夏から歩道も開通したので、歩行者や自転車でも対岸へ渡れるようになった)

オンラインクラスで心がけていることなどありますか?またオンラインクラスでの利点と問題点について

▶美恵子教授

オンライン授業の問題点は、教師の立場から言うとやはり「どう評価するか」ですね。日本語のクラスは、ひらがな、カタカナや漢字などの読み書きの学習が含まれていますが、対面授業の形式ですと、例えば「鉛筆やペン以外はカバンにしまってください。漢字のクイズをしますよ~」などと言ってミニクイズをするので、頭に入っていないと何も書けません。それなので、学生は覚えなきゃいけないというプレッシャーがあって、教師にとってはきちんとついてきているかどうかを見る評価の対象の一つとなります。

ところが、オンライン形式ですと、今までのクイズ、特に先ほど挙げたようなタイプのクイズが無意味になってしまうんです。オンラインでクイズを出すと学生は電子辞書を引いたり、教科書を見たりとカンニングしようと思えばいくらでも出来てしまいます。ですから、単純に対面授業でしてきたことをオンラインに置き換えることは出来ません。オンラインのクラスでは、何かプロジェクトをさせて評価をするという流れになってきていると思います。ゴールを設定して、それに向かって授業プランを立てる感じですね。

例えば、学習ゴールが「自分の家族など身近にいる人たちについて話すことが出来る」だったとします。従来の試験でしたら、 "My mother is 50 years old"の様な英文を日本語に訳す様な問題がだされていたかもしれません。でも、そういった形式の試験はやめて、学生に「想像上の家族を作って、名前や歳などを日本語で紹介してください。何度か練習した後、*Flipgridに投稿してください。クラスメートの発表にもコメントしてください」などといったプロジェクトを評価の対象とするのです。ここでポイントは「実際の家族」ではなくて「想像上の家族」ですね。なぜなら、ご家庭の事情が複雑な学生も多いからです。

*Flipglid:フリップグリッドは、与えられた課題をビデオ録画して投稿する学習プラットフォーム。クラスメートのビデオ投稿を見て、コメントすることなども出来る。

オンライン形式で、学生の学習環境が平等ではないと改めて、分かりました。一緒に部屋をシェアしているご兄弟に自閉症があり物音に敏感なので、ビデオカメラやマイクをオンにしていることが難しい学生。住んでいるビルのインターネットの環境が悪く、いつもスマホで非常階段のような場所からクラスにアクセスしている学生。通常でしたら、保育園に預けている子どもが家にいるので、面倒を見ながら授業を受けている学生など。集中して勉強出来る場所がない学生は、本当に気の毒です。対面授業でしたら教室という空間があったんですけれどね。

オンライン形式の利点は、通学から解放されたことですね。ご存知のようにラッシュ時のニューヨーク市の地下鉄は、あまり楽しいものではありませんよね。また、ニューヨーク市やその近郊に住んでいる必要がありません。実際、ご実家のある中西部の州や母国にもどって授業をとっている学生もいます。

クラスに関していえば、オンラインですと質問がしやすくなったという所でしょうか。対面授業のときは物静かだった学生が、オンライン授業では、チャット機能を使って質問したり、答えを積極的に書いてきたりするのはうれしいですね!

また、オンライン授業だからこそ、大活躍な機能もあります。こちらも和子先生にやり方を教えていただいたのですが、*Pear Deckなどインターラクティヴな機能をスライドに加えることで、日本のクイズ番組のように学生が自分のスクリーンに書いた答えを一斉にうつしたりすることが出来ます。中には答えが分からなくてSad face  :(  の絵文字(Sad face 日本語絵文字なら(T_T)や(泣))を書いてたりする生徒もいたりしますが、それはそれで、クラスを盛り上げてくれるボケ役として大目にみています。

*Pear Deck: ペアデックの機能をグーグルスライドにアドオンして作ったスライドをシェアすると学生は答えを書きこんで投稿できる。

ニューヨーク州でもコロナワクチンの接種が始まりました。これから始まる春学期も強制的にオンライン形式ですが、パンデミックが落ち着いても、オンラインのクラスは残ると思います。学生が対面授業かオンライン授業をとるのか、自分に合った形式を選べるようになっていくのではないかなと思います。

Jan12-2021a.jpg        ©iStock

▶和子教授

美恵子先生がおっしゃっている通り、オンラインですと学生をどのように評価するかという部分が教育者としては一番苦戦するところです。私たちが教えているのは何なのか?何が今学期のゴールなのか?ということです。今までは、その部分は大義名分としてあつかわれ、実際の評価方法は、紙ベースのテストで、日本語の文法や語彙、構文をテスト当日にどの程度暗記しているかがカギになっていました。

その評価方法がある意味フェアでしたし、教師も採点やグレーディング(評価)に悩みがない。でもその方法ってよくよく考えると、ゴールが日本語の背景にある言葉のルール(文法や語彙)をどのぐらい暗記していますか?ってことになってしまうんです。暗記しているから、仮に明日飛行機に乗って日本に遊びに行ったとしても日本語を使えるし、暗記しているから、日本の企業に勤めても日本語を使える、、、というロジックです。

これは日本の英語教育でも同じことが言えるのですが、そもそも外国語の教育のゴールってそこなのでしょうか?今回、美恵子先生が、おっしゃっていた「鉛筆やペン以外はカバンにしまってください」というクイズが機能しなくなってしまったため、日本語教育で従来行われてきた漢字クイズや語彙クイズ、もっというと中間試験や期末試験に至るまで、どうやってカンニングを防止するのか?ということになってしまうのです。

残念ながら、私たちが教えている学生はデジタルネイティブ(物心がつく頃にはインターネットやパソコンなどが普及していた環境で育った世代のこと)と呼ばれる世代です。仮に、自宅にあるパソコンを使って画面をオンにして授業を受けていたとしても、他のディバイスがその学生の周りにはあります。カンニング防止のために開発された *Lockdown Browser などもあり私も使ったことがありますが、教育現場で使えるテクノロジーで「カバンにしまってするテスト」はあまり機能しなくなっているんです。

*Lockdown Browser :コピー&ペーストができない、固定画面表示にする、ほかのブラウザーを開けられないようにするなど、さまざまな機能を備えたカンニング防止のツール

実際に大学生や高校生で別タブを開いてテストを受けながら*Discordを使って答えを教え合っていたケースがありました。デジタルネイティブにとって、分からないことは先ずググる(分からないことをGoogleグーグルで検索)わけですし、友だちとの会話もチャットです。わが家にはティーン・エイジャーが3名いますが、彼らは話さないですね。四六時中、手のひらにスマホがあり、友だちとのやり取りはほぼチャットです。

*Discord:チームチャットのできるアプリ。友人やコミュニティの仲間と話す場所を提供するサービス

仮に、彼らが将来、日本に旅行に行くことなったとしても、日本語の教科書を持ち込むことはないとしてもスマホは持っていくと思います。道が分からなければ、現地の人に道を聞くのではなくGoogle Map(グーグルマップ)を使うでしょうし、Google Translates(グーグルの翻訳機能)がもっと発達すれば、日本語での意思疎通が必要な場面では、英語でSiri(アップル社の製品に搭載されているボイス・アシスタント機能)に伝えれば、Siriが日本語に訳してくれます。

デジタルネイティブにとって、分からないことをGoogleに聞くという行為自体、喉が渇いたら水を飲んだり、おなかがすいたらつまみ食いするのと同じぐらいの感覚だと思います。

実は秋学期中に、ニューヨークで長年公立高校で数学を教えてきた先生とお話する機会がありました。その方は今は定年され、数学の先生方を指導する立場にいらっしゃるのですが、ある質問をしてみました。私が4人の親としてアメリカの教育で驚いたことを率直につたえ、どういうことなのか?という質問をしました。

それは、アメリカの公立の教育では低学年である程度の四則演算を指導した後に、電卓を持たせ始めます。小学生の間はいわゆる電卓ですが、中学生、高校生になると100ドルもするようなサイエンス電卓(関数電卓)を学校に持っていかないといけなくなります。大学受験のために受けるSATやACTのテストでもサイエンス電卓は持ち込みOKとなっています。数学の現場で電卓が導入され始めたころ、現場の先生から反発の声があがらなかったのかを聞いてみました。

すると、紙と鉛筆で計算することが当たり前だった時代から電卓の時代に移行した時に教育現場は混乱したそうです。ただ、教師側の意識が変わっていき、今は学生が電卓を使ってどのような答えを導き出せるのかがゴールなのだそうです。ただ、その電卓を使いこなせないのでは正しい答えは出せないし、宝の持ちぐされになる。私たちの仕事は、次世代を社会に送り出すことなのだから、デジタルネイティブの学生を育てるためには教師側もStay current(最新)で居続けることが必要だ、というものでした。

コロナ以降、教育のデジタル化は教育のデジタル化は5〜10年分進化したと言われています。外国語教育だけではないのかも知れませんが、「教科書を閉じてテスト」というよりは、学生達が本当の意味で語学力を身につけたどうかを評価することが重要になってくるわけです。

マイクロソフトのCEOサティア・ナデラ氏談『COVID-19発生からの2ヶ月は2年分に相当するデジタル革命である』

【プロフィール 敬称略、順不同】

スパーベック美恵子(スパーベックみえこ)

神奈川県出身。1995年にペンシルバニア州フィラデルフィアのテンプル大学を卒業後、日本に戻り、英会話スクールで英会話教師として勤務。その後、アメリカ人との結婚を機に来米。ミネソタ州ミネアポリスの語学学校で日本語教師となり、多くの客室乗務員に日本語を教える。2001年ニューヨーク市立大学大学院言語学部に入学。10年に同校を卒業後、同年9月アデルファイ大学の言語学兼任教授に就任。13年からジョンジェイ大学で日本語を教える。現在2校を兼任。

齋藤和子(さいとうかずこ)
ニューヨーク市立大学(CUNY)の非常勤講師 兼 公立中高の日本語教師。CUNYのオンライン教材開発プロジェクトCCI-2020の発起人兼プロジェクトリーダー。CUNYブルックリン大学にて2017年より100%日本語オンラインコースを開講。年明けにはElectronic Village Online 2021にてSOFLA (Synchronous Online Flipped Learning Approach:同期型オンライン反転教育アプローチ、Marshall) ワークショップに、モデレーターとして参加する予定。92年日本語教育能力検定試験合格。同年、国際交流基金主催日本語教師派遣JALEXプログラムの第一期生としてインディアナ州日米協会に派遣された経歴を持つ。

【関連リンク】
スパーベック美恵子教授のプロフィール(英語)
齋藤和子教授のプロフィール(英語)

 

Profile

著者プロフィール
ベイリー弘恵

NY移住後にITの仕事につきアメリカ永住権を取得。趣味として始めたホームページ「ハーレム日記」が人気となり出版、ITサポートの仕事を続けながら、ライターとして日本の雑誌や新聞、ウェブほか、メディアにも投稿。NY1page.com LLC代表としてNYで活躍する日本人アーティストをサポートするためのサイトを運営している。

NY在住の日本人エンターテイナーを応援するサイト:NY1page.com

ブログ:NYで生きる!ベイリー弘恵の爆笑コラム

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