コラム

トランプ新政権の外交安全保障を「正しく予測」する方法

2024年02月26日(月)16時55分

まず、2016年大統領選挙では、それまで主流であった外交安全保障関係者が「Never Trump」運動という反トランプ活動をしていたことから、トランプが勝利した場合に既存の外交安全保障者が排除されることは明らかであった。そのため、初期のトランプ周辺には、親ロ派やリバタリアンなどのワシントンD.C.では干されてきた人々が目立っていた。

当時、筆者はワシントンD.C.でトランプを支える中心人物と言われていた、ロックフェラー家の人物が主催したリバタリアン系の勉強会に出席する機会を得た。その際に、議論されていた内容は、日本、韓国、ドイツなどの同盟国がロビー費用をかけて米国を戦争に巻き込もうとしているという趣旨であった。筆者にはかなり意外な内容であったが、初期のトランプ大統領の発言はこのような背景事情を反映したものだったと言える。

 
 

トランプ前政権の外交安全保障の方針も「予測不能」ではなかった

しかし、トランプ政権はあくまで共和党政権に過ぎず、その範囲内での政策立案を行うことも自明でもあった。上述の通り、既存の主流派が排除された環境において、実際に外交安全保障の政策を立案できる存在は「党内保守派」だけである。そのため、保守派のヘリテージ財団や国防総省に近いハドソン研究所などの影響力が強まることになった。

そして、トランプ前政権の外交安全保障の方針決定が決定的に行われた瞬間は、2018年10月に実施されたペンス副大統領によるハドソン研究所における対中演説であった。同演説は日本でも大きく報道されたため記憶に残っている人も多いことだろう。その後、トランプ政権の政策は一環として保守派の政策が採用されて安定することになった。

このようにトランプ政権であったとしても、その周辺情報や政治構造に関する分析を実施すれば、トランプが誰の意向を受けて、どのような狙いを持って発言しているかを知ることは不可能ではなかった。トランプの発言は、本人の再選意向を踏まえた上で、上述の力学の結果として生まれたものであり、メディアで喧伝されていた「予測不能」とされたものではなかった。

トランプ再選時の政策展望、シンクタンクが鍵

では、2024年にトランプが勝利すると仮定した場合、我々は新政権の外交安全保障政策を予測するために、どのようなリソースに基づいて分析するべきなのだろうか。

筆者は下記3つのシンクタンクのレポートを読むことをお勧めしたい。

(1) ヘリテージ財団
(2) ハドソン研究所
(3) アメリカ・ファースト・ポリシー研究所

ヘリテージ財団は保守派(及びMAGA寄り)の政策を立案する、保守派最大のシンクタンクだ。2025年の新政権に向けて政権人材のリクルート作業を進めており、その政策骨子として「Mandate for Leadership 2025」を公表している。筆者の見立てでは、ヘリテージ財団は主に国内政策への影響を持つと考えているが、彼らは外交安全保障に関しても一定の知見を有している。上述の政策骨子では、反中姿勢が明確に打ち出されており、対イランを強調するなど、オーソドックスな共和党保守派の政策のアウトラインが示されている。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、シカゴへの州兵派遣「権限ある」 知事は

ビジネス

NY外為市場=円と英ポンドに売り、財政懸念背景

ワールド

米軍、カリブ海でベネズエラ船を攻撃 違法薬物積載=

ワールド

トランプ氏、健康不安説を否定 体調悪化のうわさは「
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 6
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 7
    トランプ関税2審も違法判断、 「自爆災害」とクルー…
  • 8
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    世界でも珍しい「日本の水泳授業」、消滅の危機にあ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story