コラム

一年以内に菅内閣を退陣させたい──規制改革に抵抗する既得権者の思惑

2021年01月29日(金)12時10分

菅内閣の規制改革の手法にも課題がある

一方、菅内閣の規制改革の手法にも課題があることは事実だ。そして、この課題は菅内閣だけに限ったものではない。日本の規制改革は欧米型の洗練された規制改革手法が取られていないことに問題がある。

日本の規制改革は時の為政者が自らの政治力を用いて実行する手法が好まれている。その事例として河野大臣がしばしば言及する「縦割り110番」のような目安箱方式が挙げられる。この方法は為政者が国民からの陳情を受けて、その内容を精査し、1つ1つの規制改革について、政治力で解決しようとするものだ。縦割り110番と同様に、国家戦略特区なども総理のリーダーシップに依存する同じタイプの方式だと言って良いだろう。

この手法は同時に規制改革の成否が規制改革意識に燃える政治家個人の物理的・精神的なリソースに頼る極めて原始的なものだ。約15000個程度存在する許認可等だけでも政治家が個別に精査することは不可能であり、このやり方を継続する限りは増加し続ける規制に対して有効な改革を実現することは困難である。その上、現状のように菅総理バッシングを盛り上げることで、規制改革を進めるパワーを削ぐやり方に簡単に足を引っ張られてしまう。

規制の経済損失コストに関する削減ルールを設定すべき

欧米型の規制改革手法は、政治家のリーダーシップは必要とするものの、規制改革に関する国民的な議論の土台を揃えるプロセスに特徴がある。

欧米の主要先進国では、ほぼ全ての規制は規制導入・維持に伴う「経済損失コスト」が計算されている。つまり、ある規制を1つ作った場合、それが経済に与える負の影響が細かく計算されることで、その規制が経済活動を阻害してまで本当に必要なのか、を客観的に議論することが可能となっている。そのため、不要不急な規制は導入されず、経済的な負担が重すぎる規制は見直しの対象とする議論が進む。また、政権全体の規制改革の目標を決める際には「規制に伴う経済損失コストの総量」をどれだけ低下させるか、というマクロな目標設定すらも設定することができるのだ。これは非常に合理的な規制改革の方法だと言えるだろう。

その象徴的な事例は、トランプ政権が導入していた2対1ルール(新しい規制1つ作るには2つ分の既存の規制に伴う経済損失コストを削減する)であり、日本でも本気で規制改革を実現するなら、規制の経済損失コストに関する削減ルールを設定するべきである。

規制の経済損失コスト削減に関するルールを策定すると、既得権側も政治圧力をかけるだけでなく、衆人環視の議論に通用する理屈が求められるようになる。その結果として、前述の農地の株式会社取得のように政治的なパワーゲームを背景として「全く問題が無いのに実施を先送りする」という国会でまともに説明できない意思決定は極めて困難になるだろう。その意思決定の根拠を数字で詰められてしまうことになるからだ。

菅政権に求められることは、個別の規制改革だけでなく、政府と国民が規制改革を議論するための方法を抜本的に刷新することだ。日本政府に仕組みとして規制改革をビルドインすることができた時、菅政権は後々まで評価される意味がある規制改革の仕事をできたと言えるだろう。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

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