コラム

2024年、共和党はニッキー・ヘイリーを初の女性大統領候補者として擁立するだろう

2020年08月27日(木)14時30分

自らの大統領選挙のための予行演習のようなスピーチだった...... REUTERS/Kevin Lamarque

<8月24日開幕した米共和党大会。この党大会中に行われた演説の中で異彩を放った人物はトランプ大統領の他に存在していた...... >

2020年米大統領選に向けた与共和党の全国大会が8月24日開幕、トランプ大統領は共和党の大統領候補に正式指名された。しかし、この党大会中に行われた演説の中で異彩を放った人物はトランプ大統領の他に存在していた。

それはニッキー・ヘイリー前国連大使である。インド系移民の両親を持つ女性の元サウスカロライナ州知事による演説は党大会におけるトランプ大統領の応援演説というより、むしろ2024年に向けた自らの大統領選挙のための予行演習のようなスピーチであった。

自らの外交政策や経済政策の実績、米国批判一辺倒・左傾化を強める民主党批判、米国のマイノリティーの可能性など、平易な言葉を使いながらも、多くの米国民からの合意が得られる表現を用いたヘイリーの演説は非常にアトラクティブなものだったと言えるだろう。

政治的バランス感覚が極めて高いニッキー・ヘイリー

ヘイリーは2024年の次期共和党大統領候補者として最有力候補者と見做されている。2016年に当選したトランプ大統領がヘイリーを国連大使に指名した際、筆者の知己である共和党重鎮・グローバー・ノーキスト全米税制改革協議会議長は同人事について共和党の中長期的な未来を見据えた選択であったと称賛していた。

今年春先に開催された共和党保守派の年次総会であるCPAC(Conservative Political Action Conference)の会場では、トランプ大統領のシンボルであるMAGAハット(帽子)の横に、Nikki Haley 2024の文字が刻まれた帽子が売られているほどの人気ぶりだ。現職の閣僚でもなく、そのような人気を誇る人物は現在の共和党には例がない。

ヘイリーは民間企業、州議会議員、州知事、という経歴を持つ叩き上げの政治家だ。そして、ティーパーティーブームに押される形で、その運動のシンボルとなった保守派の雄である。直近ではボーイングの取締役を務めていたが、政府による過剰な救済策に反対し、その職を辞している。そのため、共和党内で苦しい立場になりつつある財政保守派やリバタリアン勢力はヘイリーに期待する向きがある。

ただし、その政治的バランス感覚は極めて高く、共和党内の主流派との関係も目配する一面も持ち合わせている。2016年大統領選挙においても、最初はマルコ・ルビオ上院議員を推薦し、その後テッド・クルーズ上院議員に乗り換え、最後にはトランプとの関係を修復するなど、その政治的な変わり身の早さには驚かされるものがあった。生き残りにかけた感性は大したものだと思う。

米国初の女性大統領になる予感......

トランプ大統領は自身の閣僚が政権を去る際に口汚く罵る傾向があるが、ヘイリーに関してはそのようなことは殆どなかった。その背景には仮にヘイリーが2020年の大統領選挙で共和党予備選挙に出馬することになれば、トランプ大統領とヘイリーで共和党を二分する闘いとなり、場合によってはトランプ大統領が敗北する可能性があったからだろう。トランプ大統領は自らの地位を危うくする存在を罵倒することは決してない。(たとえば、大統領を首にする権限を持つペンス副大統領に対する批判を公の場で行ったことはない。)

トランプ大統領が再選されるか、バイデン元副大統領が在任期間を無事に乗り切った場合、米国初の女性大統領はニッキー・ヘイリーになる。そのような予感を感じさせる印象的な共和党大会の一幕であった。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

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