コラム

「次の震源地はサヘル」──2026年テロ情勢を揺るがす拡散リスク

2025年12月09日(火)17時42分
「次の震源地はサヘル」──2026年テロ情勢を揺るがす拡散リスク

namaki -shutterstock-

<2026年の国際テロ情勢で最も深刻な懸念は、サヘル地域の不安定化とそこからギニア湾岸へ拡大する脅威である。世界のテロ関連死者の半数を占める同地域では、地政学的変動が過激派組織の活動を一層活発化>

2026年のテロ情勢において最も懸念されるのが、サヘル地域だ。テロ活動はサヘル地域を震源地とし、地政学的変動に乗じてギニア湾岸諸国へさらに波及する恐れがある。また、イスラム国ホラサン州(ISKP)の対外的攻撃性、ローンアクターによるデジタル過激化などにも注意が必要だ。

国際的なテロ情勢は、2024年の動向を分析するに、2026年においてもその脅威が継続し、かつ地理的拡散の傾向を一層強めるだろう。

最新の統計(Global Terrorism Index 2025)によると、1件以上のテロ事件が発生した国の数は58カ国から66カ国へと増加しており、一部の例外的な地域を除けば、テロ活動そのものの件数は世界的に上昇している。

テロによる死者数は2024年に7555人に減少したが、これはその前年の特異な攻撃の急増に対する反動であり、テロの脅威が本質的に低下したわけではない。

サヘル地域 テロの世界的中心地と地政学的変動の波及

2026年における国際テロの震源地は、引き続きサヘル地域であろう。2024年において、世界のテロ関連死者数の過半数、すなわち51%を占めたこの地域は、地政学的な大変動の渦中にある。

マリ、ブルキナファソ、ニジェールといったサヘル諸国が、西側諸国から距離を置き、ロシアなどとの安全保障上の関係を強化する動きは、2026年においてもこの地域の安全保障構造を根本から変容させるであろう。

西側諸国の対テロ支援や軍事プレゼンスの縮小は、イスラム過激派組織、特にJNIM(イスラムとムスリムの支援団)に対し、活動領域をギニア湾岸諸国へと拡大する絶好の機会を提供している。2024年にはトーゴが過去最悪のテロ件数を記録したように、2026年においてはギニア湾沿岸諸国へのテロの波及が最も警戒すべきシナリオの一つとなる。

ブルキナファソでは一時的なテロ活動の減少が見られたものの、ニジェールで死者数が大幅に増加しており、今後の情勢は依然として極めて不安定である。さらに、金やウランといった天然資源を巡る競争が、サヘル地域の不安定化要因として作用し続けることも見逃せない。

この地域では、テロによる死者数が2019年以降ほぼ10倍に増加しており、世界で最も危険な地域としての地位を固めているのである。

プロフィール

和田 大樹

株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO、清和大学講師(非常勤)。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論など。大学研究者として国際安全保障的な視点からの研究・教育に従事する傍ら、実務家として海外進出企業向けに政治リスクのコンサルティング業務に従事。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国政府系ファンドCIC、24年純利益は前年比30

ビジネス

独ティッセンクルップ、26年は大幅赤字の見通し 鉄

ビジネス

ドイツ輸出、10月は米・中向け大幅減 対EU増加で

ビジネス

グーグル、AI学習でのコンテンツ利用巡りEUが独禁
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 9
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 10
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story