コラム

日本の中心は諏訪にあり 「原日本」を求めて諏訪大社の秘密に迫る

2020年05月20日(水)12時30分

◆前宮が真の主役か

続いて前宮へ足を伸ばす。さらに南東へ1kmほど進んでから守屋山寄りに少し入った斜面にあるのだが、「大社」と呼ぶには小さな社である。両手を清める手水は、社殿の脇を流れる自然の小川で行う。そんな質素な佇まいが、かえって原日本的で心地よい。社殿の背後には塀で囲まれた神域があり、一般の参拝客は入れない。なぜなら、こここそが、出雲から逃げ延びてきたかのタケミナカタとその妻、八坂刀売命(やさかとめのみこと)が祀られた場所だと考えられているからだ。

「前宮」とは、現在の諏訪大社の様相を見ると「本宮」に対する前座的な意味合いに聞こえるが、本宮より「前(=以前)」からあったお宮という解釈も成り立つ。つまり、守矢家側の観点では、こちらが本来の自分たちの信仰の地なのである。そこにタケミナカタがやってきたという混沌とした様相ではあるが、上社の真の主役は前宮という解釈もできそうだ。本宮の拝殿がイレギュラーな形で前宮の方に向いていたのも、それならば説明がつく。

そんなわけで、ますます「日本の原点ここにあり」感が増すわけだが、実際にその場に立つと、守矢家も前宮もとても地味な場所だ。しかし、「ここに日本の原点がある」いう視点を持つと、俄然パワースポット然とした強い空気を感じるから不思議なものだ。今回の旅を経て、守屋山が見下ろすこのエリアは、若い頃から日本人としてのアイデンティティを求めていた僕にとっては、特別な場所になった。

7R402397.jpg

原日本的な質素な佇まいの上社前宮

◆現代に戻って下社を目指す

7R402463-2.jpg

この日は新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言前。町の人のマスク着用率は半々といったところ

7R402523.jpg

ホームセンターでは、トイレットペーパーの棚だけが空っぽだった

前宮を後にして、諏訪湖とその先の下社を目指して再び北西へ進む。途中の市街地には、冒頭で垣間見た"埼玉通り"的なエリアもあって、古(いにしえ)のロマンから一気に現実に引き戻されてしまった。「ありのままの日本を見る」というのがこの旅の主旨だから、それもまた良し、ではある。

この日は、新型コロナウイルスの流行による緊急事態宣言が出される前の2月29日。原稿を描いている今が、この長野県を含む39県の緊急事態宣言が解除された5月14日だ。この当時は、町を行き交う人々のマスク着用率はまだ半分くらいで、自粛パニックの走りでトイレットペーパーがどこへ行っても品切れという状況。諏訪市の郊外住宅地のホームセンターを覗いてみると、やはりトイレットペーパーとティッシュペーパーの棚だけが見事に空だった。

7R402571.jpg

諏訪市中心部にある高島城。諏訪大社の歴史に触れた後だと、戦国時代がえらく新しく感じる

7R402740.jpg

諏訪湖の夕暮れ

そんな現代のリアルに触れた後、諏訪湖の手前の高島城に立ち寄った。復元された天守閣と立派な堀があるなかなかの城なのだが、古代ロマンにどっぷり浸かった後では、戦国時代がえらく新しく感じる。さらに小1時間歩き、諏訪湖畔で夕暮れを迎えた。真っ赤な夕日に映える湖面の写真でもお届けしたいところだったが、あいにくの曇りで叶わず。それでも、水辺の黄昏は良いものだ。

到着が日没後になるのは確実だったが、最後の力を振り絞って下社秋宮、続いて春宮へ。こちらは上社の本宮と前宮とは違い、まるで双子のような瓜二つの神社が約1.5km隔てて建っている。下社は上社よりも少し新しく、大和朝廷の命により守矢家の影響が強い上社を牽制するために建造されたという説がある。「上」と「下」は諏訪湖を中心とした河川の上流側・下流側という位置関係を表す名称で、下流側の平地が多い地域の方が農耕が盛んで、上社がある山側は狩猟文化が色濃く残っていた。そんな現代にも通じる地域性が、神社の性格にも反映されている。

誰もいない夜の下社に到着。ほのかにライトアップされた姿もまた神秘的でなかなか良いものだ。秋宮と春宮の拝殿をそれぞれ正面から撮影して、双子っぷりを堪能。本日のミッションはこれにて終了とし、下諏訪駅まで歩いて次回に繋いだ。

7R402801_b.jpg

まるで双子のような瓜二つの下社秋宮(上)と春宮の拝殿

map3.jpg

今回歩いたコース:YAMAP活動日記

今回の行程:諏訪大社上社参道 → 下諏訪駅(https://yamap.com/activities/5729856)※リンク先に沿道で撮影した全写真・詳細地図あり
・歩行距離=23.5km
・歩行時間=10時間00分
・上り/下り=175m/174m

プロフィール

内村コースケ

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。外交官だった父の転勤で少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験。かねてから希望していたカメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「書けて撮れる」フォトジャーナリストとして、海外ニュース、帰国子女教育、地方移住、ペット・動物愛護問題などをテーマに執筆・撮影活動をしている。日本写真家協会(JPS)会員

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

緩和の出口戦略含め、財政配慮で曲げることはない=内

ワールド

習首席が米へのレアアース輸出に合意、トランプ大統領

ビジネス

アングル:中国製電子たばこに関税直撃、米国への輸入

ワールド

日米関税協議、「一致点見いだせていない」と赤沢氏 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:韓国新大統領
特集:韓国新大統領
2025年6月10日号(6/ 3発売)

出直し大統領選を制する李在明。「政策なきポピュリスト」の多難な前途

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 4
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 5
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 6
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 9
    ウクライナが「真珠湾攻撃」決行!ロシア国内に運び…
  • 10
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story