コラム

移住者人気No.1の北杜市 シャッター街と馬がいる理想郷を抜けて

2020年01月10日(金)18時30分

馬の町から信玄の道を通って信濃国へ

7R402133.jpg

小淵沢の町のあちこちにある「馬横断注意」の看板

7R402298.jpg

馬道で出会った馬

小淵沢は「馬の町」としても有名である。大小多くの乗馬クラブと県営の馬術競技場あり、リゾートエリアには馬道がよく整備されている。乗馬が盛んなイギリスなどヨーロッパの町並みを彷彿とさせる点も、このあたりが純和風の周辺の既存市街地とは明らかに様子が異なる理由であろう。

小淵沢まで歩いてきたからには、ぜひ馬を見たい。出会いを求めて馬道を歩いてみると、念願通り2頭の美しい馬が前方の林間から現れた(本稿冒頭の写真)。他の地域の日常生活ではほとんど見られないこうした光景も、新天地で第二の人生を歩みたいと考える人々を引きつけるのではないだろうか。

この小淵沢はまた、「日本横断徒歩の旅」的には、山梨県最後の町である。奥多摩の陣馬山を下山してから、今回を入れて10回に渡って合計約170kmを歩いて山梨県を横断してきた。その道程で、笹子峠の交通史に触れたり、勝沼のブドウ畑で甲州ワインをテイスティングしたり、甲府盆地の地方病との戦いに思いを馳せたりした。しかし、なにはともあれ、甲斐国がそのまま県になった山梨の主役は、なんと言っても「武田」である。あらゆる町角、山の中にも武田の栄光が見え隠れする。馬の町小淵沢の歴史もまた、武田の軍馬の産地だったことに行き当たるのだ。

7R402394.jpg

"国境"に到達。旅の舞台は長野県へ

そして、山梨県(甲斐国)からその先の長野県(信濃国)へ抜ける道は、これまた武田の軍用道路として開かれた「信玄棒道(しんげんぼうみち)」である。県境を示す看板は、棒道沿いの県道の小さな橋の先にあった。周囲は八ヶ岳南麓の赤松中心の林から、信州の高原を象徴するカラマツ林に変わっていた。日没時間を過ぎ、カラマツの真っ直ぐに伸びた幹が、冷涼で澄んだ信州の濃紺色の夜空に伸びる。遠くに鹿の鳴き声。八ヶ岳山麓は、古代日本人のルーツがある野生が立ち上る土地だ。

今日のスタート地点の長坂からここ富士見町に伸びる棒道には、「送り犬」の伝説がある。送り犬とは、夜道にいつの間に現れる、野犬様の妖怪である。

ある日、忠兵衛が上諏訪からの帰途、立沢(現・長野県富士見町)まで来ると日が暮れてしまった。花戸ヶ原にさしかかると、送り犬につかれた。人家が近い小荒間(現・山梨県北杜市小淵沢町)までくるといなくなったが、それをはずれたらまた山犬がついてきた。谷戸村(現・山梨県北杜市大泉町)大芦の入口にある鳩川の橋のたもとで「ごくろうよう」といったら、犬は姿を隠した。(『長坂町史』より)

県境を過ぎてから、この記述に出てくる立沢の棒道を歩いた。富士見高原スキー場の明かりを目指して小一時間夜道を進み、今日の歩きを終了。まだ積雪はないが、いつ降ってもおかしくないひんやりとした夜空だった。次回は、縄文古代文化発祥の地、尖石遺跡を経て、筆者の移住先である白樺湖・車山方面を目指す。

7R402462.jpg

「送り犬」が出そうな夜の棒道を進む

map3.jpg

今回歩いたコース:YAMAP活動日記


今回の行程:長坂駅 → 富士見高原スキー場(https://yamap.com/activities/5270126
)※リンク先に沿道で撮影した全写真・詳細地図あり
・歩行距離=18.2km
・歩行時間=7時間14分
・上り/下り=694m/150m

プロフィール

内村コースケ

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。外交官だった父の転勤で少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験。かねてから希望していたカメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「書けて撮れる」フォトジャーナリストとして、海外ニュース、帰国子女教育、地方移住、ペット・動物愛護問題などをテーマに執筆・撮影活動をしている。日本写真家協会(JPS)会員

今、あなたにオススメ

キーワード

ニュース速報

ビジネス

アップル、関税で今四半期9億ドルコスト増 1─3月

ビジネス

米国株式市場=上昇、ダウ・S&P8連騰 マイクロソ

ビジネス

加藤財務相、為替はベセント財務長官との間で協議 先

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story