コラム

選挙の日に歩いた桜咲く渓谷と平成の町

2019年04月23日(火)14時00分

撮影:内村コースケ

第6回 藤野駅(神奈川県相模原市)→梁川駅(山梨県大月市)
<平成が終わり、東京オリンピックが開催される2019年から2020年にかけて、日本は変革期を迎える。名実共に「戦後」が終わり、2020年代は新しい世代が新しい日本を築いていくことになるだろう。その新時代の幕開けを、飾らない日常を歩きながら体感したい。そう思って、東京の晴海埠頭から、新潟県糸魚川市の日本海を目指して歩き始めた>

◆平成最後の月に見る平成元年の「ラブレター」

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「日本横断徒歩の旅」全行程の想定最短ルート :Googleマップより

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これまでの5回で歩いてきたルート:YAMAP「活動データ」より

前回は、裏高尾からの登山道ルートで山越えし、東京を脱出。そこから繋ぐ旅路の続きは、中央本線の藤野駅からのスタートとなった。平成の大合併によって2007年に相模原市に組み込まれた旧藤野町は、神奈川県の北西端に位置する。新潟県糸魚川市を目指すこの旅では、ルートの約3分の2をほぼ甲州街道(国道20号)に沿ったエリアを進むが、そのうちのごく短い神奈川県部分が、今回の歩きの序盤を占めることになる。

藤野駅付近から見て相模川の先にある山肌に、巨大なラブレターのオブジェがある。中央自動車道の藤野PAや中央本線の車窓からも見えるので、見たことがある人も多いと思う。これは、『緑のラブレター』という地元造形作家、高橋政行さんの平成元年(1989年)の作品で、テニスコート一面分くらいの大きさがある。国が地域振興のために地方自治体に1億円を交付した「ふるさと創生事業」(1988-89)をはじめとする、平成最初の町おこしブームがあった時代の産物だ。

藤野町には、戦時中に藤田嗣治や猪熊弦一郎ら著名芸術家が疎開してきた影響で、戦後にかけて多くの芸術家が集まってきた。この『緑のラブレター』は、その「芸術の町」にちなんだ町の「ふるさと芸術村構想」の一環として作られたもので、ほかにも当時の作品が駅周辺に多く残っているという。平成の終わりに一つの時代を総括するこの旅では、今後もこうした"平成の遺産"に多く出会うことになるだろう。

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藤野駅前から見える高橋政行作『緑のラブレター』=神奈川県相模原市

◆ブラックバス釣りは「懐かしもの」になる?

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相模湖の延長の相模川では、ブラックバス釣りを楽しむ人たちの姿が見られた=神奈川県相模原市

前回の「山越え」によって国道沿いのルート上にある相模湖は迂回していたが、その延長の相模川の川幅はまだ広く、湖の雰囲気を残していた。満々と湛えられたコバルトブルーの水が、春の山あいに映える。午前の陽光に輝く水面には、ブラックバス狙いのルアーフィッシングを楽しむ人たちが点々とボートを浮かべていた。

一見したところ、バサーたちはいずれも、1970年生まれの筆者と世代が近い30~50代に見えた。僕がブラックバスという魚を初めて知ったのは、小学校5年生くらいの時だと思う。当時は東京の品川区に住んでいたが、都会っ子の僕らにとっては、釣りの対象魚と言えばせいぜい大井埠頭のハゼくらい。雑誌などでブラックバス釣りが紹介され始めると、その強そうなカタカナの名前と、「ルアー」「ゲームフィッシング」といったナウい言葉に胸を踊らせたものだ。

そんな僕ら昭和生まれの平成世代を直撃したバスフィッシングもまた、ゴルフなどと同様、バブル期にピークを迎え、平成末期に向かって下火になりつつあるレジャーだと言えよう。要因は言うまでもなく、ブーム時から言われていた在来の湖沼・河川環境への悪影響である。魚食性で極めて繁殖力が強いブラックバスは、今ではワカサギなどの日本固有の魚を駆逐する害魚として各地で駆除の対象になっている。そんな先細りの状況だから、そう遠くない将来、ブラックバス釣りは「昭和〜平成の懐かしもの」の一つに数えられるかもしれない。

プロフィール

内村コースケ

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。外交官だった父の転勤で少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験。かねてから希望していたカメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「書けて撮れる」フォトジャーナリストとして、海外ニュース、帰国子女教育、地方移住、ペット・動物愛護問題などをテーマに執筆・撮影活動をしている。日本写真家協会(JPS)会員

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