コラム

マスクの季節、電柱の林を超えて梅と高速道路の里・高尾へ

2019年04月03日(水)16時30分

◆梅香る高速道路の里

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小仏峠方面に続く旧甲州街道

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小仏関跡

高尾駅の先で国道20号から枝分かれしている旧甲州街道に入る。いよいよ"コンクリート・ロード"のラストスパートだ。ところで、第1回で書いたように、今回の旅はよくある旧街道を辿る歩き旅ではない。大半を旧甲州街道に沿ったコース取りをしているものの、旧甲州街道そのものを歩いたのは、調布駅付近のほんの150mほどと、この裏高尾の街道筋だけだ。あとは、裏道、寄り道ばかりのここまでの約80kmであった。

このあたりまで来ると、東京とは思えないような山里の雰囲気が出てくる。ちょうど梅の時期で、梅の里として名高い裏高尾の一番良い季節に当たった。至る所梅・梅・梅である。この旅から戻って10日以上経った今も、山の方からじわじわと押し寄せる肌寒い空気に混じる甘くて少しだけ青臭い梅の香りが、ありありとよみがえる。

こんなふうに書くとなんともロマンチックな場所なようだが、この地域にはもう一つの顔がある。旧甲州街道沿いの細長い谷は今も交通の要衝であり、旧道に平行して中央自動車道とJR中央本線が通っているのだ。さらには、平成の大半を費やして建設された高尾山をくりぬく圏央道も交差していて、高速道路の巨大構造物と鉄道の轟音、梅の里の情緒が入り乱れる摩訶不思議な空間が形成されている。そうした風景は無意識な前衛芸術的であり、ドキドキする。

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梅の里の通学路

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梅の里の上空を貫く圏央道の高架=八王子ジャンクション付近

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街道沿いの清流

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山村的風景の背後には常に高速道路と梅が見えた

日没が迫り、トンビの群れが梅の里の上空を旋回する。ゴール予定地の登山口手前の小仏バス停が近づいてきた。バスは1時間に1本しかないので、次のバスを逃すと帰りが大変だ。山から下りてくる人たちの波に逆らって山に向かうカタルシスを感じながら、ラストスパートは小走りに近い歩調で緩やかな上り坂を急いだ。17時39分、大急ぎで証拠の自撮り写真を撮って、40分発の高尾駅行きのバスに飛び乗った。最後になったが、今回は同行者なしの一人旅であった。次回は、5人のパーティーで山を越える。

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夕暮れの梅の里の上空をトンビの群れが旋回していた

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ゴールの小仏バス停で自撮り。1時間に1本の帰りのバスにギリギリ間に合った

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今回歩いた豊田駅前--小仏バス停のコース:YAMAP活動日記

今回の行程:豊田駅前─小仏バス停(https://yamap.com/activities/3274631
・歩行距離=18.9km
・歩行時間=7時間58分
・高低差=186m
・累積上り/下り=476m/303m

プロフィール

内村コースケ

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。外交官だった父の転勤で少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験。かねてから希望していたカメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「書けて撮れる」フォトジャーナリストとして、海外ニュース、帰国子女教育、地方移住、ペット・動物愛護問題などをテーマに執筆・撮影活動をしている。日本写真家協会(JPS)会員

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