コラム

マスクの季節、電柱の林を超えて梅と高速道路の里・高尾へ

2019年04月03日(水)16時30分

◆梅香る高速道路の里

04067.jpg

小仏峠方面に続く旧甲州街道

04069.jpg

小仏関跡

高尾駅の先で国道20号から枝分かれしている旧甲州街道に入る。いよいよ"コンクリート・ロード"のラストスパートだ。ところで、第1回で書いたように、今回の旅はよくある旧街道を辿る歩き旅ではない。大半を旧甲州街道に沿ったコース取りをしているものの、旧甲州街道そのものを歩いたのは、調布駅付近のほんの150mほどと、この裏高尾の街道筋だけだ。あとは、裏道、寄り道ばかりのここまでの約80kmであった。

このあたりまで来ると、東京とは思えないような山里の雰囲気が出てくる。ちょうど梅の時期で、梅の里として名高い裏高尾の一番良い季節に当たった。至る所梅・梅・梅である。この旅から戻って10日以上経った今も、山の方からじわじわと押し寄せる肌寒い空気に混じる甘くて少しだけ青臭い梅の香りが、ありありとよみがえる。

こんなふうに書くとなんともロマンチックな場所なようだが、この地域にはもう一つの顔がある。旧甲州街道沿いの細長い谷は今も交通の要衝であり、旧道に平行して中央自動車道とJR中央本線が通っているのだ。さらには、平成の大半を費やして建設された高尾山をくりぬく圏央道も交差していて、高速道路の巨大構造物と鉄道の轟音、梅の里の情緒が入り乱れる摩訶不思議な空間が形成されている。そうした風景は無意識な前衛芸術的であり、ドキドキする。

04077.jpg

梅の里の通学路

04095.jpg

梅の里の上空を貫く圏央道の高架=八王子ジャンクション付近

04093.jpg

街道沿いの清流

04101.jpg

山村的風景の背後には常に高速道路と梅が見えた

日没が迫り、トンビの群れが梅の里の上空を旋回する。ゴール予定地の登山口手前の小仏バス停が近づいてきた。バスは1時間に1本しかないので、次のバスを逃すと帰りが大変だ。山から下りてくる人たちの波に逆らって山に向かうカタルシスを感じながら、ラストスパートは小走りに近い歩調で緩やかな上り坂を急いだ。17時39分、大急ぎで証拠の自撮り写真を撮って、40分発の高尾駅行きのバスに飛び乗った。最後になったが、今回は同行者なしの一人旅であった。次回は、5人のパーティーで山を越える。

04108.jpg

夕暮れの梅の里の上空をトンビの群れが旋回していた

04113.jpg

ゴールの小仏バス停で自撮り。1時間に1本の帰りのバスにギリギリ間に合った

map.jpg

今回歩いた豊田駅前--小仏バス停のコース:YAMAP活動日記

今回の行程:豊田駅前─小仏バス停(https://yamap.com/activities/3274631
・歩行距離=18.9km
・歩行時間=7時間58分
・高低差=186m
・累積上り/下り=476m/303m

プロフィール

内村コースケ

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。外交官だった父の転勤で少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験。かねてから希望していたカメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「書けて撮れる」フォトジャーナリストとして、海外ニュース、帰国子女教育、地方移住、ペット・動物愛護問題などをテーマに執筆・撮影活動をしている。日本写真家協会(JPS)会員

今、あなたにオススメ

キーワード

ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、トランプ氏と28日会談 領土など和

ワールド

ナジブ・マレーシア元首相、1MDB汚職事件で全25

ワールド

ロシア高官、和平案巡り米側と接触 協議継続へ=大統

ワールド

前大統領に懲役10年求刑、非常戒厳後の捜査妨害など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 8
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story