コラム

平成の終わりに、東京から新潟まで歩くことにした

2019年03月05日(火)18時30分

東京五輪選手村建設地 撮影:内村コースケ

第1回 東京・晴海→明大前駅
<平成が終わり、東京オリンピックが開催される2019年から2020年にかけて、日本は変革期を迎える。名実共に「戦後」が終わり、2020年代は新しい世代が新しい日本を築いていくことになるだろう。その新時代の幕開けを、飾らない日常を歩きながら体感したい。そう思って、東京の晴海埠頭から、新潟県糸魚川市の日本海を目指して歩き始めた。愚直な男たちの旅の記録を、ゴールまで連載でお届けする。>

◆「平成世代」の総括として

平成が終わる2019年、そして、東京オリンピックがある2020年は、間違いなく日本の節目だ。昭和45年生まれの僕は、平成元年を大学1年生で迎えた。そして、まだ働き盛りの48歳で平成の終わりを迎える。平成という時代が良い時代だったかどうかは別として、10代後半から40代後半という、人生のコアな部分でその時代を体験した僕ら世代には、何かしら「平成に対する責任」のようなものがあると思う。

僕らが頑張れなかったせいで平成が「失われた30年」になったと言われれば、返す言葉がない。そうは言っても、責任を取って今から挽回するなどと大それたことは到底約束できない。じゃあ、無力な自分に何ができるのだろう?

僕は、昭和の終わりに写真に出会い、以来、ライフワークとしていわゆる「ストリート・スナップ」というジャンルの写真を撮り続けている。高校時代から撮っている東京を中心に、最近は移住先の長野県や訪れた先の地方都市や田舎町でも、カメラを手に彷徨っている。30年余りの平成を振り返ると、挫折したり途中でやめてしまったことは多々あれど、写真を撮ることと、社会人になってから生業としている文章を書くことだけはずっと続けてきた。

ならば、自分なりの写真と文章で「今の日本」を捉えることで、30年の総括をすればいいのではないか。いや、それしか思いつかなかったし、それくらいのことしかできない。その具体的な手段として、カメラを手に、あらためてこの時期に日本をひた歩くことにした。

◆「日本の真ん中」をひた歩く

01001.jpg「日本横断徒歩の旅」全行程の想定最短ルート :Googleマップより

では、具体的にどこを歩いて何を見ればいいのか。何かジャーナリストとしての使命感を持って、現代社会の矛盾をえぐり出すといった視点でもあればいいのかもしれない。しかし、不器用な自分には、愚直に文字通り歩き続けることしかできない。そもそも、真実とは、分かりにくく複雑で地味なものだ。下手なバイアスをかけては、かえって真実を見誤る。マスメディアが分かりやすくキャッチーに切り取った事象の断片が、時に真実を捻じ曲げてしまうように。真実の「道」は、「無為自然」だ。

そうは言っても、「分かりにくく複雑で地味な真実」を、そのままの形で人に伝えるのは不可能だ。だが、そこに道標として最低限の自分の視点を添えれば、コミュニケーションは成り立つ。少なくとも、受け手がそれぞれの視点で日本を捉え直すきっかけにはなるだろう。そう考えて、ともかく、そのスタンスで黙々と「今の日本」を歩き、旅の過程を写真と文章で残すことにした。

「日常こそが美しい」。これは真言だと思う。今の日本の淡々とした真実を体感するにあたっては、祭りとか話題のスポットなどの「ハレ」はかえって邪魔だ。時期や場所を意識せず、偶然出会ったものにレンズと感性を向ける。それでいいのだ。とはいえ、やはりおおまかなコースは定めた。何ごとにおいても、最低限の道標がないと認知できないのが人間だ。

そんなわけで、東京から新潟の糸魚川まで歩くことにした。東京湾岸の晴海埠頭をスタートして甲府まで甲州街道沿いに歩き、そこからフォッサマグナの東端(糸魚川構造線)に沿って日本海に抜けるというコースだ。これに決めた理由は追々書くとして、要は「日本の真ん中」を横断するわけだ。現実問題として一気に歩くのは無理なので、暇を見つけては少しずつ歩き、その都度出直しては前回ゴール地点から再開する方式とする。きっと、1年以上かかると思う。「旅は道連れ」を地で行って、「都合がつく時だけでいいから」と、友人たちも誘った。

プロフィール

内村コースケ

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。外交官だった父の転勤で少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験。かねてから希望していたカメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「書けて撮れる」フォトジャーナリストとして、海外ニュース、帰国子女教育、地方移住、ペット・動物愛護問題などをテーマに執筆・撮影活動をしている。日本写真家協会(JPS)会員

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

欧州、ウクライナ和平巡る協議継続 15日にベルリン

ビジネス

ECB、成長見通し引き上げの可能性 貿易摩擦に耐性

ワールド

英独仏首脳がトランプ氏と電話会談、ウクライナ和平案

ビジネス

カナダ中銀、金利据え置き 「経済は米関税にも耐性示
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲う「最強クラス」サイクロン、被害の実態とは?
  • 4
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 5
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 8
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 9
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 10
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story