コラム

石油が出る国なら、これほど発展しなかった──倹約国家ニッポンの実力とは?

2022年08月05日(金)11時59分
石野シャハラン
節電

ZUMA PRESS/AFLO

<資源に乏しい国だからこそ、知恵を絞って価値を作り、利益を共有できる社会になった。原発の再稼働は難しい判断だが、ドイツの混乱を見ていると自国でできることが何かを考えさせられる>

あまりに暑いので、涼しくなる話をしよう。実は、日本の家は寒い。初めて日本に住み始めた冬、その寒さに驚愕した。築約20年の一軒家の室温は外気とほとんど変わらなかった。居間をストーブで暖めても、廊下も玄関も寒い。

家中(シャワールームまで)セントラルヒーティングが入っているイランでは、どんなに貧しくてもこんな寒い家に住んでいる人はいない。

私の勝手な「豊かな日本」のイメージがひとつ崩れたのだが、あれから20年たった今は、よく分かる。日本は資源に乏しい国で、それを自覚し、燃料を節約することが、美徳となってきた。素晴らしい「もったいない精神」だ。

それでも、ドイツに住む私の兄がビデオ通話をするたびに真冬でも半裸でいることが、私はとても羨ましかった。ドイツのどの家庭も、セントラルヒーティングで家中ポカポカらしい。イラン人だけでなく多くの外国人は、家では半裸や半袖でいるのが好きだ。兄は室内でもフリース着の私をいつも、「出掛けるの?」とからかう。

だが兄も、次の冬を半裸で越すのは難しそうだ。省エネに邁進して、石炭火力発電も原子力発電も廃止を目標としてきたドイツは、ロシアの天然ガス頼みだった。そこへ、このウクライナ侵攻だ。このままでは、日本の私のようにフリースを着て過ごさないといけないかもしれない。ぜひユニクロのフリースを送ってあげたい。

これまでも、日本は資源がないから、という話は事あるごとに聞かされてきた。6月は税金のシーズンで、固定資産税やら住民税やらの通知が来る。そのたびに、なんて日本は税金が多いんだ‼とうんざりする。

イランにはこんなにいろんな種類の税金はない。少なくとも一般市民から、所得税以外にいろいろな税金を細々と集めたりはしない。所得税だって、真面目に支払っている人がどのくらいいるのか疑問なくらいだ。

日本のように、富裕層でもない一般人に督促状が来て、差し押さえられるなど到底考えられない。私がそう嘆くたび、日本人は「掘れば石油が出るイランとは違うから」とあきれる。

確かにそうかもしれない。ここ数年は、アメリカによる経済制裁で原油が輸出できなくなっているが、それでも「石油を売れば国庫はどうにかなる」という気楽さがあるのは否定できないだろう。

それは、イランだけでなく湾岸諸国、ひいてはロシアその他の石油・天然ガスが豊富にある国に共通した意識だと思う。石油も天然ガスも、毎秒どんどん減っていて、いつかは底を突くのだが。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米厚生省、mRNAワクチン開発を段階的に終了へ

ワールド

米、ザンビア・マラウイの一部渡航者に最高1.5万ド

ワールド

バングラデシュ、政権崩壊から1年 暫定政権は来年2

ビジネス

米がドローン新規制案、荷物配達など商業利用加速へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 3
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 4
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 5
    こんなにも違った...「本物のスター・ウォーズ」をデ…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 8
    【徹底解説】エプスタイン事件とは何なのか?...トラ…
  • 9
    永久欠番「51」ユニフォーム姿のファンたちが...「野…
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「原子力事…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 5
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 6
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 7
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 8
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 5
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 6
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 7
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 8
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 9
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 10
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story