コラム

日本企業が欲しいのは結局、「自分で考える人」か「上司の意をくむ人」か

2022年04月15日(金)17時33分
西村カリン
日本のビジネスマン

OOYOO/ISTOCK

<日本企業の入社式を取材したフランス人記者が「矛盾」を感じ、暗い気持ちになってしまった理由と、経営者に語って欲しかったこと>

4月1日に家電などの量販店を運営するグループの入社式に取材で出席した。「礼」などのリハーサルから式の終わりまで初めて目にしたが、入社式はフランスにはないものだから大変勉強になった。同時に、いろいろと考えさせられる経験だった。

新入社員はおよそ900人で、わりと大きい入社式だった。ルールも厳しかった。新入社員は会場内では自由に座ることはできず、前の数列は女性、後ろの数列は男性と決まっている。もちろん全員、黒のスーツに白のシャツ。司会者が「新入社員起立、礼、着席」と言ったら、全員同時に動く。それを本番前に何度も練習していた。数人でもタイミングが合わない場合は、やり直さないといけなかった。

社長の挨拶は約50分と長かったが、いろいろと興味深かった。もし私が新入社員だったらどう受け止めたかと考えながら聞いたし、新入社員の様子も観察した。

社長が何度も語った「良い子」「悪い子」

社長の挨拶には何十回も「努力」という言葉が出て、努力するかどうかで社員を評価するのかと驚いた。何を努力するのか、それをどう判断するのか分からないからだ。

社長は話の中で「悪い子」という表現を何度も使った。彼にとっては誰が悪い子かというと、「努力しない子」だ。努力せずに会社を辞めてしまう新入社員だ。「良い子」は努力して、行動する新入社員。これを聞いて、考え方の根底にあるものや目的は異なると思うが、フランスのエマニュエル・マクロン大統領の話し方を思い出した。マクロンは「成功した人」と「何の力もない人」の2つのグループで人を分ける。

社長は「上司が言うことはどうでもいい。大事なのは自分で考えて行動すること」とも強調した。ただ、それは目の前の光景ととても矛盾する内容ではないかと私は思った。皆同じ制服のようなスーツを着て、皆同じような姿勢を取る。皆同時に同じ言葉を聞いて、同時にメモを取る。

「自分で考えて行動する」とは真逆の態度だが、おそらく社長はそれを求めている。おそらく全ての新入社員も「自分で考えて」その態度を決めた。この「自分で考えて行動する」について、フランス人の理解と日本人の理解は異なるようだ。

私からすると「自分で考えて行動する=自由に決めて自由にやる」。でも、たぶん多くの日本人にとっては「自分で考えて行動する=相手が望んでいる態度をよく理解した上で行動する」。教育や社会環境によって、言葉の意味が大きく異なることに改めて気付いた。それでも日本人経営者とフランス大統領が言いたいことは同じ。両者とも同じような社員や国民を評価する。つまり行動する人、諦めない人、全身全霊で働く人。目標は成功と成長だ。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

インド26年度予算案、財政健全化の鈍化示す フィッ

ビジネス

ウォーシュ氏のFRB資産圧縮論、利下げ志向と両立せ

ワールド

米特使、イスラエルでネタニヤフ首相と会談へ=イスラ

ワールド

シンガポール、宇宙機関を設立へ 世界的な投資急増に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 2
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」から生まれる
  • 3
    世界初、太陽光だけで走る完全自己充電バイク...イタリア建築家が生んだ次世代モビリティ「ソラリス」
  • 4
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 5
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 6
    中国政府に転んだ「反逆のアーティスト」艾未未の正体
  • 7
    中国がちらつかせる「琉球カード」の真意
  • 8
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 9
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 10
    エプスタイン文書追加公開...ラトニック商務長官、ケ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 5
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story