コラム

在日外国人の私が新宿二丁目のマイノリティーに共感する理由

2020年01月21日(火)19時20分
周 来友(しゅう・らいゆう)

二丁目では、LGBTムーブメントに対して当惑するという声も ALESSANDRO DI CIOMMOーNURPHOTO/GETTY IMAGES

<実は二丁目では、昨今のLGBTムーブメントに対して、当惑したり文句を言ったりしている人が多い。「多様性」が謳われるが、私も在日外国人というマイノリティーとして懸念していることがある>

かつて新宿二丁目に「HIROKI」という名の店があった。カウンターに7、8人座れるだけの小さな店だ。美輪明宏やおすぎ、ピーコが常連で、日本のLGBTの先駆者たちのたまり場だった。

私は彼らが言うところの「ノンケ」だが、月に1度はその店に通っていた。彼ら「マイノリティー」の話を聞いているだけで興味深かったし、いま思えば、在日外国人というマイノリティーとして共感するところもあったのかもしれない。30年ほど前のことだ。

あの店はもうないが、その後、新宿二丁目はアジア最大のゲイタウンとして有名になった。一方、テレビを見れば、30年前とは比べものにならないくらい「オネエ」のタレントが活躍している。彼らの存在は今ではもう日本社会で広く認められているように思える。

だが二丁目で話を聞くと、意外なことに、当惑したり文句を言ったりしている人が多い。マツコ・デラックスに対して? いやいや、昨今のLGBTムーブメントに対してだ。

いわく、ゲイはアンダーグラウンド。裏の世界に生きるマイノリティーだからこそ、人生が面白いのだという。「LGBTに権利を」と言われても、そういう注目のされ方は望んでいないし、それで冷やかしのノンケ客が増えても素直に歓迎できない──そんな声が聞こえてくる。

もちろん、喜んでいるゲイもいれば、客が増えてうれしい二丁目の店もあるだろう。だが私は、そんな戸惑いの声のほうに共感してしまうのだ。私自身、マイノリティーであることが面白いと思っているから。

マイノリティーとして生きるには覚悟が必要だが、みんな同じになって個性がなくなったら面白くないじゃない。中国ですら同性婚の合法化に向けた動きが出るほど、「多様性」は時代のキーワードだ。

私もそれに反対するわけではないが、社会に変化が起こるとき、ひずみも生じることを忘れてはならないと思う。アンダーグラウンドとして生きたいという二丁目住人の声もその1つだし、カミングアウトを望んでいないのにそのプレッシャーにさらされるLGBTもいると聞く。

そうした「そっとしておいてほしい権利」にどう配慮するかは難しい問題かもしれない。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英サービスPMI4月改定値、約1年ぶり高水準 成長

ワールド

ノルウェー中銀、金利据え置き 引き締め長期化の可能

ワールド

トルコCPI、4月は前年比+69.8% 22年以来

ビジネス

ドル/円、一時152.75円 週初から3%超の円高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story