<北海道出身で、東京を拠点に活動する二人組アイドルWHY@DOLL(ほわいどーる)。アイドルというフィルターを通して、癒しを得ることができるのは、彼女たちのライブ以上のものはなかなかない>

先日、ホリプロダクションの創業者である堀威夫氏と鼎談をする機会を得た。そのときのテーマは「中三トリオ」であった。1970年代を代表するアイドル―森昌子、桜田淳子、山口百恵の三人だが、正式なグループではない。たまたま同じオーディション番組「スター誕生!」で前後してデビューして、それぞれがブレイクしたため、そのような「愛称」が独り歩きしたのである。

堀氏と話しながら、私はこの「中三トリオ」といういわば日本のアイドルの原型の魅力を考えた。それは「人に対する丁寧な応対」と「純粋さ」である。おそらく前者は人を癒す力につながるだろうし、後者は誰からも愛される要素に転じるだろう。いずれにせよ、この二つの特徴は、中三トリオでほぼイメージを確立し、今日までも続いている日本の女子アイドルの性格だともいえる。

WHY@DOLL(ほわいどーる)の個性と魅力

北海道出身で、東京を拠点に活動する二人組アイドルWHY@DOLL(ほわいどーる)もまた「人に対する丁寧な応対」と「純粋さ」をベースにしている。WHY@DOLLは、青木ちはると浦谷はるなの二人組女子アイドルである。彼女たちのキャッチコピー「オーガニックガールズユニット」にもこの二つの特徴がよく表現されている。「オーガニック(有機的)」とは、要するに人為的な手が加えられてない素のままの個性のことだろう。オーガニックなものは、人の心や体にも優しい。そんな意味がこの「オーガニックガールズユニット」に込められている。

日本には数千人の女子アイドルが活躍している。私も相当にいろいろなアイドルを見てきたが、最も居心地のいい場所が、彼女たちのライブである。東京という大都会で、アイドルというフィルターを通して、癒しを得ることができるのは、彼女たちのライブ以上のものはなかなかない。匹敵するものとしては、新潟に拠点を置く三人組のアイドルNegicco(ねぎっこ)ぐらいかもしれない。拙著『ご当地アイドルの経済学』(イースト新書)の中で、彼女たちの活動を経済学的な視点から紹介して以来、完全にファンになってしまった。そして前述したNegiccoも所属しているT-Palette Reocrdsから、彼女たちのセカンド・アルバム「WHY@DOLL」が8月1日に発売される。

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アルバムの題名が彼女たち自身の名前であることで象徴されるように、各楽曲が「オーガニック」な要素満載である。辛口の音楽批評で有名なライムスター宇多丸氏が、2016年度の第一位のアイドル楽曲に選んだ「菫アイオライト」など新曲を多数含めた名盤だ。彼女たちはアイドルの中でも音楽性に富んだいわゆる"楽曲派"といわれている。例えば、彼女たちのワンマンライブでは、アコースティックライブも珍しくはない。多くのアイドルがカラオケ中心の中で、彼女たちの肉声、楽器の音色、ライブの臨場感など音楽そのものを大切にする姿勢を崩さない。

今回もその特徴をいかんなく発揮した出来栄えとなっている。特に同世代のアーチィスト仮谷せいらが、作詞として参加した二曲「Tokyo Dancing」と「夜を泳いで」は象徴的な作品になっている。WHY@DOLLのふたりは、北海道から東京に移住してもう4年ほど活動を続けている。仮谷作詞(Jess&Kenji<give me wallets>作曲)の前者は、東京での幸福の一瞬、そして後者は東京での孤独を象徴している。実際に、「夜を泳いで」を地方遠征の帰りに歌詞を読んだふたりは涙したという(参照:[ほわどる対談 vol.1] WHY@DOLL x 仮谷せいら x give me wallets)。

特に重要なのは、上記の対談で仮谷が「ふたりが思ってることをWHY@DOLLのファンやふたり自身にも受け取ってもらってジ〜ンとしてほしいっていうのが、実は裏テーマでした」と述べているところである。

共感力によって分断を解消する

現代のアイドルたちの活躍する場は、さまざまに「分断」されている。アイドルとファンの間にも「分断」はある。アイドルたちが求めるものと、ファンが求めるものに深刻なズレがあることも珍しくない。特に現代のアイドルのライブでは、ファンもまたひとつの重要なパフォーマンスの要素である。彼ら&彼女たちの沸き方が、アイドルたちの評価を決めてしまうこともある。だが、それが必ずしも一体となっているかどうかは難しい問題だろう。

例えば、評論家の速水健朗とフリー編集者のおぐらりゅうじの共著『新・ニッポン分断時代』(本の雑誌社)には、人々の「分断」を解消するアイドルとして、ベッド・インを紹介している。ベッド・インは80年代後半のバブル時代を再来させるために結成されたコンビだ。彼女たちは、いわば「みんながお金の恩恵をうけたバブル」を再現することで、社会の分断を修復しようとしているのだ、と速水たちは言う。その意味ではかなりラディカルなアイドルである。だが、WHY@DOLLのように、(仮谷せいらが指摘している)共感力によって分断を解消する道もあるはずだ。そしてこの共感力こそが、冒頭に書いたアイドルのもつ「癒し」の根源でもある。

ノーベル賞を受賞した経済学者のアマルティア・センは、アダム・スミスの古典『道徳感情論』の中に、何が正しいのか、何がいいのかを押し付けることなく、共感の力によって分断の時代を乗り越えるものを見出している。実は、私が日本のアイドルたちの中に見出している大きな要素は、この共感による分断の乗り越えである。その力を最も強く感じるアイドルのひとつが、WHY@DOLLだ。

彼女たちの「オーガニック」は、有機的な人と人とのつながりを再生することも意味するのではないか。アダム・スミスからWHY@DOLL(ほわい・どーる)へ。アイドルは経済学をもその世界に含んでいく。