コラム

日本銀行の「リーク」体質を利用する悪い「市場関係者」たち

2016年09月15日(木)12時01分

Toru Hanai-REUTERS

<来週、9月20日、21日に開催される日本銀行の金融政策決定会合に注目が集まっている。追加の金融緩和あるなしをめぐって、いわゆる「市場関係者」の予想が賑々しいが、それは、何を表しているのか...>

「市場関係者」のコメントは、組織・団体の利害を反映したものになりがち

 今月の9月20日、21日の両日に開催される日本銀行の金融政策決定会合に注目が集まっている。前回の決定会合で黒田東彦日銀総裁が、インフレ目標達成のための「総括的検証」を行うと公表したため、それに関連して金融緩和あるなしをめぐっての予想が、いわゆる「市場関係者」を中心に煩い。

【参考記事】日本銀行の「追加緩和」は官僚的な対応のきわみだ

 ここでいう「市場関係者」というのは、例えば市場ー財・サービス市場、労働市場、資産市場ーに参加する人たちの中のごく一部の既得権者たち(筆者の目算だとせいぜい三桁)を表現する言葉でしかない。

 例えば金融関係の取引を分析するアナリスト、エコノミスト、株や国債のディーラーたち、それに群がるメディア関係者、金融機関やファンドの社員たち等(のさらにごく一部)で構成される。彼らの多くは自分たちの利害関係だけから見解を述べるので(ポジショントークをする)、要するに既得権者の代表(エージェント)でしかない。そのため「市場関係者」といっても本当の市場の代弁ではないし、ましてや日本経済の厚生改善という視点で発言する「市場関係者」はごく少数である。

 このためメディアで「市場関係者」のコメントがあるときは、それが彼&彼女たちの属する組織・団体の利害を反映したものになりがちであることに注意したほうがいい。またメディア自身もそれら「市場関係者」と長期的関係を築いているため(つまり安定的に情報を得てメディアも儲けるため)、「市場関係者」(=一部の既得権益者)の利害にそった報道をしやすい。

 日本銀行の政策転換が2013年春に行われたが、それまでの日本銀行担当のメディアや「市場関係者」の既得関係の構図が崩れたようで、これらの人たちは日本銀行の政策に関する情報をどこから得るべきか一時期、混乱していた。そのときに筆者にもアクセスがあった。実際に彼らの発言を直接に聞いてみると、逐一、手前勝手の既得権ベースの視点でしかなかった。そこには日本経済や国民の厚生の改善を重視する視点はない。筆者にアクセスしてきた連中は、筆者が既得権関係にのれない人間だとわかると早々に離れて行った。

 個々の意見や報道の在り方が、それぞれの利害に基づくのはやむを得ない側面はあるが、ただしその「やむを得ない」程度は、その報道や経済情報を公にする市場が競争的な場合にかぎられる。そして日本の報道や経済情報を交換する場は、競争的というよりも、閉鎖的で歪んでいると見なしていい。

プロフィール

田中秀臣

上武大学ビジネス情報学部教授、経済学者。
1961年生まれ。早稲田大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。専門は日本経済思想史、日本経済論。主な著書に『AKB48の経済学』(朝日新聞出版社)『デフレ不況 日本銀行の大罪』(同)など多数。近著に『ご当地アイドルの経済学』(イースト新書)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国とインドネシア、地域の平和と安定維持望む=王毅

ワールド

日鉄のUSスチール買収、法に基づいて手続き進められ

ワールド

インドネシア、大規模噴火で多数の住民避難 空港閉鎖

ビジネス

豪企業の破産申請急増、今年度は11年ぶり高水準へ=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 3

    【画像】【動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲深くも「勇ましい」空軍のサルマ王女

  • 4

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 5

    パリ五輪は、オリンピックの歴史上最悪の悲劇「1972…

  • 6

    人類史上最速の人口減少国・韓国...状況を好転させる…

  • 7

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 8

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    アメリカ製ドローンはウクライナで役に立たなかった

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 7

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    温泉じゃなく銭湯! 外国人も魅了する銭湯という日本…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story