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ロシア政治

なぜプーチンは歴史を語り続けるのか...「日本史もよく勉強している」

2026年2月27日(金)17時10分
上月豊久 (前駐ロシア特命全権大使)

彼は、この論文で2800万人の犠牲者を出した第二次世界大戦の開始は、独ソ不可侵条約ではなく、ミュンヘン会議にこそ責任があると論じた。

ミュンヘン会議においてチェコスロヴァキアのズデーテンのドイツへの割譲によって欧州の「平和」が一時的に達成されたが、結局、この妥協が第二次世界大戦に繋がったと強調することによって、再び、ロシアの安全保障の犠牲のもとにNATOが拡大していることは欧州の不安定を招くとの警告を発したのである。


プーチン大統領は、2021年7月に「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」と題する論文を発表したが、これはプーチンの歴史認識、さらにウクライナ侵攻開始の意図を知る上で最も重要な論文の一つと言える(*5)。

この論文の中でプーチンは「ロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人はすべてキエフ・ルーシの末裔である」と断言している。発表されたのがロシアによるウクライナ侵攻の約7ヶ月前であったことを考えると、論文の政治的な重要性がわかるだろう。

ウクライナ戦争の開始直後の2022年4月12日には、プーチンはルカシェンコ・ベラルーシ大統領に対して、「我々は、どこまでがベラルーシでロシアかということは気にしていない。ロシア、ベラルーシ、ウクライナは一体である」と述べているが、プーチンの考えは一貫しているのである(*6)。

プーチンがロシアとウクライナは歴史的のみならず今日でも一体だと考えているということは、要するに、ウクライナの問題を実質的に「ロシアの国内問題」と考えているということに他ならない。

この考え方が、プーチンのウクライナ侵攻の理論的支柱となっているのである。

[注]
(*1)フィオナ・ヒル、クリフォード・G・ガディ/濱野大道、千葉敏生訳『プーチンの世界「皇帝」になった工作員』(2016)新潮社、p‌88
(*2)kremlin.ru/events/president/transcripts, May7, 2024
(*3)kremlin.ru/contacts/president/interview, February9, 2024
(*4)kremlin.ru/75thAnniversary of the Great Victory: Shared Responsibility to History and our Future
(*5)kremlin.ru/events/president/news/66181 ウラジーミル・プーチン/山形浩生編訳『プーチン重要論説集』(2023)星海社新書、p‌p363-395
(*6)kremlin.ru/events/Joint press conference, April12, 2022


上月豊久(Toyohisa Kozuki)
1956年生まれ。東京都出身。1981年、東京大学教養学部教養学科卒業、外務省入省。北米局日米安全保障条約課長、外務大臣秘書官、欧州局ロシア課長、欧州局長、大臣官房長などを経て、2023年まで8年にわたり駐ロシア特命全権大使を務める。2026年2月現在、千葉工業大学特別教授、東海大学国際学部教授兼平和戦略国際研究所所長として国際政治・ロシア史研究に従事している。『プーチンの歴史認識──隠された意図を読み解く』(新潮選書)は初の著作。


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