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関税を振り回すトランプのオウンゴール...インドとEUがアメリカを尻目に貿易や防衛の協定締結

THE “MOTHER OF ALL DEALS”

2026年2月4日(水)17時40分
ダニシュ・マンズール・バット (本誌アジア地域編集ディレクター)

一方、アメリカでは機会を失ったという感情が渦巻いている。アメリカはインドと同様の貿易協定を結んでおらず、輸出業者は世界最大の人口を擁する成長著しい市場で不利な立場になる。機械、農産物、高級品をインドに輸出する米企業は引き続き高い関税を払う一方で、欧州の競合企業は最大で製品の99%について関税の免除もしくは優遇を享受する。

インドの輸入業者はコスト削減のために欧州の供給業者を選ぶだろうと、米商工会議所は警鐘を鳴らす。インドの巨大市場を狙う大豆や酪農など農業分野や、産業機械、航空宇宙部品といった製造業は、関税格差により欧州企業に市場シェアを奪われることも十分に考えられる。


目先の金銭的な損失だけではない。貿易、技術、安全保障を包括するインドとEUのパートナーシップは、インドにとってアメリカとその同盟国への依存度を低下させる可能性もあるのだ。

近年、アメリカはインドを中国に対抗するインド太平洋戦略の重要なパートナーと位置付け、日米豪印戦略対話(QUAD)を首脳レベル会合に格上げした。しかし、インドが欧州という「強力な選択肢」を手に入れれば、アメリカの影響力が相対的に薄れかねない。特に安全保障・防衛パートナーシップは、米印の戦略的関係の排他的な強みを損なう。

これらは米印関係が直ちに破綻することにつながるわけではないが、微妙な変化は始まっている。欧州の指導者たちは、合意にこぎ着けた背景にトランプの関税政策があると認めている。「世界はアメリカを待っていない。アメリカ抜きの世界に適応し始めている」と、交渉に関わったEU当局者は匿名で本誌に語る。EUとインドの双方が、自由貿易は保護主義に勝ることを示そうと決意したのだ、と。

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