ミャンマーでクーデター後初の総選挙...死刑の威嚇で進む「軍の茶番劇」の裏で、独裁体制に亀裂が生まれるかも
Junta’s Ballot Farce
総選挙後の大統領就任が確実視されているミンアウンフライン AP/AFLO
<軍政が国内外に「正当性」をアピールする狙いと、それでも完全には消えない「わずかな希望」の正体とは>
ミャンマーで2021年2月に起きた軍事クーデター後、初の総選挙が25年12月28日に開始される。同国軍事政権によれば、総選挙は3段階で実施され、26年1月25日に3回目の投票が行われる予定だ。
だが確実に予測できることが2つある。第1に、総選挙は軍系政党の勝利で終わる。第2に、亡命状態の民主派組織、国民統一政府(NUG)はさらに影が薄くなるはずだ。
クーデターからほぼ5年になるなか、国軍はNUGが設立した国民防衛隊や少数民族武装組織と争い、ミャンマーは内戦に陥っている。主要な居住地域を支配する国軍の激しい攻撃にもかかわらず、抵抗勢力は健在で、国内の広い範囲を手中に収める。治安状況を理由に、今回の総選挙は全国330郡区のうち56郡区で中止が発表されている。
総選挙は、国内外で「まやかし」と評されている。選挙管理委員会は必要最低党員数などを変更し、基準に満たないとして複数の政党の登録を抹消。アウンサンスーチー率いる国民民主連盟(NLD)も解散を命じられている。
新たな法律で総選挙批判も禁じられた。オンラインで批判を行った者は最長7年の重労働刑を言い渡され、一部の行為には死刑が適用される。
軍政にとって総選挙の目的は国内外での正統性の獲得だ。現状を維持しつつ、民主主義規範の遵守を装うことで平常回帰ムードを促進し、権力を強化し、国際社会との関係改善への道を開こうとしている。
NUGとその支持派は、選挙監視団を派遣しないよう国際社会に呼びかけている。ミャンマーが加盟するASEAN(東南アジア諸国連合)は、暴力停止や包括的な政治対話が先決だと主張。25年10月のASEAN首脳会議で、監視団を派遣しない方針を決めた。
民主派が問われる課題
今や軍政は、ロシアやベラルーシから成る監視団派遣国リストに、ASEAN加盟国が個別で加わってくれることを期待するしかない。
例えば、タイは総選挙が持続的平和プロセスの基盤になると主張しながらも、ASEANとミャンマーの関係回復は困難だとの見方を示していたが、25年12月19日に監視団の派遣を計画していると明らかにした。一方、総選挙を支持しているとみられる中国は、監視団派遣を公言していない。
総選挙が意味するのは、民政移管や議会制への移行ではない。全権を掌握するミンアウンフライン国軍司令官の退場が近づくわけでもない。
とはいえ、まやかしの選挙でも変化は起きる。ミンアウンフラインは大統領に就任し、後任の国軍司令官を操り人形に据えるだろう。だが(既にまひ状態の)ミャンマー憲法の下では、国軍司令官は大統領に対しても釈明義務を負わない。ミンアウンフラインの後任が自らの意思で動くようになり、交渉による紛争終結を支持することもあり得る。
つまり、総選挙はある程度の権力分散の(わずかな)可能性につながる。選挙が行われないまま、独裁と消耗戦が続くよりましかもしれない。
一方、NUGは国際社会の介入を待ち望むのではなく、総選挙が実施され、軍政と地域の関係が改善する現実に向き合うべきだ。さもなければ、NUGの存在感がますますかすむことになりかねない。
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Nicholas Coppel, Honorary Fellow, The University of Melbourne
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
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