トランプ政権の薬物戦争は評価されるのか、それとも疑われるのか
FENTANYL CRISIS AND 2028
路上生活を送るサンフランシスコの薬物常用者(2025年3月) TEUN VOETENーSIPA USAーREUTERS
<2028年の米大統領選を目指す候補者たちが動き始めるなか、フェンタニル危機は中心的な争点になりそうだ。共和党の「戦争型アプローチ」は、有権者に「決断力」と映るのか、それとも問題のすり替えと見なされるのか。本誌コラムニストでジョージタウン大学教授のサム・ポトリッキオが解説する>
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まともな研究者ならフェンタニルの「戦争兵器」指定を「嘲笑」する理由
中国側は全て否定した米議会の「指摘」
2028年の米大統領選でダークホースの勝利に賭けるなら、当たれば大きい大穴は米金融大手JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEO兼会長だろう。金融業界で「アメリカで最も傑出したCEO」との定評があるダイモンは、もし当選の可能性があるなら出馬を検討すると表明している。
そのダイモンがやり玉に挙げているのは、政府債務や経済政策などアメリカの「内なる敵」だ。しかし過去10年間、米政治を支配してきたトランプ大統領は国内の危機を外部要因に責任転嫁すべくベネズエラの船舶への爆撃、メキシコとの国境封鎖、中国への激しい非難と歴史上あまり例のない強硬な取り締まりを行っている。
トランプはフェンタニルを「大量破壊兵器」に指定した。少なくとも外形的には正しい判断と言える。この問題はアメリカが直面した最も危険な薬物の流行であり、18~45歳ではフェンタニルの過剰摂取が死因の首位。薬物過剰摂取による死亡全体の約70%がフェンタニルで、その効力はヘロインの約50倍に及ぶ。一部の推計ではフェンタニルによる年間の総被害額は約3兆ドル。イラク戦争全体の費用とほぼ同額だ。従って薬物危機を国家安全保障上の脅威と位置付けることはトランプ流の誇張表現ではなく、現実の客観的反映にすぎない。





