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NVIDIA、OpenAI、Anthropic――移民が駆動する米イノベーション、就労ビザ高額化で米国の競争力は揺らぐ【note限定公開記事】

The H-1B Visa Mess

2025年10月8日(水)17時52分
ビベック・ワドワー(フォーリン・ポリシー誌コラムニスト、起業家)、アレックス・ソークエバー(テクノロジー専門ライター)
米ニューヨーク市内のマイクロソフト本社ビルの外観

マイクロソフトやアマゾンなどの巨大企業に極端に偏るH-1Bビザの取得を、産業全体に行き渡らせるのも今後の課題 GARY HERSHORN/GETTY IMAGES

<H-1B(高度な専門職のビザ)の新規申請の手数料が10万ドルに。トランプ政権の方針は雇用を海外へ押し出し、米国の競争力を削ぐ>


▼目次
1.マイクロソフトもNVIDIAも、米国内に依存しない
2.イノベーション分野は中国がトップ
3.自国の労働者を取るか、競争力を取るか

1.マイクロソフトもNVIDIAも、米国内に依存しない

9月19日、ドナルド・トランプ米大統領は、高度な専門技術を持つ外国人向けの就労ビザ「H-1Bビザ」の新規申請に10万ドル(約1480万円)の手数料を課す大統領令に署名した。

背景には賃金の抑制やアメリカ人の雇用喪失への懸念がある。

懸念はもっともだ。一部の企業がH-1Bを乱用しアメリカの労働者を外国人労働者に置き換えているとかねて識者は指摘してきた。

アウトソーシング企業などがH-1B労働者の賃金を同じ仕事をするアメリカ人より不当に低く抑えていることを調査は示す。

だが現政権の雑で強引なアプローチは、深刻な結果を招きかねない。

手数料を現在の約1000ドルから10万ドルに引き上げれば高度な技術が求められる仕事は国外に流出し、技術分野におけるアメリカの優位性はさらに揺らぐだろう。

手数料の値上げは「外国人を雇うコストをつり上げれば、企業はアメリカ人を雇う」という時代錯誤な思い込みに基づく。人材も雇用も自由に国境を越えるグローバル経済で、こんな論理は通用しない。

H-1Bを制限した場合のシナリオを、複数の研究が提示する。

ビザに関する多国籍企業の動向を分析した研究によれば、企業はアメリカ人を雇うよりもカナダやインドの子会社で雇用を増やすという。

その影響が最も大きいのはアメリカが最も他国に譲れない職種、すなわち技術革新を推進する研究開発職だ。技術職が減少すれば、ほかの雇用も減る。

研究が示してきたとおり、高度な外国人技術者はアメリカの人材に取って代わるというより彼らを補完し、産業全体を成長させる。

とはいえH-1Bに欠陥があるのは事実だ。一部の企業は抽選制度(募集をはるかに超える応募がある)を悪用し、専門技能を必要としない職種まで大量にビザを申請する。

ディズニーやサザン・カリフォルニア・エジソンはアメリカ人と置き換えるためにH-1Bで外国人を雇い入れた。インフォシスやコグニザントなどアウトソーシングを行うITサービス企業は、H-1Bを利用して賃金を抑えてきた。

こうした会社がH-1B労働者に支払う賃金は業界最低レベルで、平均給与はNVIDIA(エヌビディア)のような先端企業の半額程度だ。

このビザの利用が少数の大企業に偏っていることも、H-1Bの欠陥を浮き彫りにする。2025会計年度でアマゾンは約1万件の承認を得た。マイクロソフトは5189件、メタは5123件、コグニザントが2493件だった。

しかも多くが初歩的業務を行う人材の雇用だ。

これでは確かに「H-1Bは高度な技術者の不足を補うという本来の目的を果たさず、安い労働力を輸入する方便になっているのでは?」と疑いたくなる。

ビザの乱用はアメリカの労働者、特に賃金競争が激しい中堅技術者に打撃を与える。企業が安い労働力を輸入するせいで賃金が上がらないとなれば、彼らが憤るのも当然。

しかしビザの手数料を跳ね上げても、雇用は守れない。雇用が国外に流れ、国の経済がさらに弱体化するだけだ。

2.イノベーション分野は中国がトップ

もっと効果的に制度を改善する方法はある。

例えばH-1B労働者に速やかに永住権を取得させ、低賃金労働を強いる雇用主から解放する。アメリカ人が不利にならないようにH-1B労働者の賃金を上げる。

◇ ◇ ◇

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【note限定公開記事】NVIDIA、OpenAI、Anthropic――移民が駆動する米イノベーション、就労ビザ高額化で米国の競争力は揺らぐ


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