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アングル:円安観強めるオプション市場、22年介入前の水準 政治空白突く投機か

2025年10月08日(水)19時37分

 ドル/円の上昇基調が止まらない。通貨オプション市場が示唆する円の先安観は、24年ぶりの円買い介入が行われた2022年9月の水準まで高まってきている。写真は日米の紙幣と国旗のイメージ。2017年6月撮影(2025年 ロイター/Thomas White)

Atsuko Aoyama

[東京 8日 ロイター] - ドル/円の上昇基調が止まらない。通貨オプション市場が示唆する円の先安観は、24年ぶりの円買い介入が行われた2022年9月の水準まで高まってきている。今後1週間は日銀からの発言機会が限られる上、新政権の組閣まで間が空くことから、政府・日銀は為替介入に動きにくいとの思惑もあり、間隙を突くような投機の動きが活発化しているようだ。 

<構造的な円高警戒を吹き飛ばす円安>

高市早苗氏が勝利した自民党総裁選を挟んで、ドルは2営業日で5円近く急上昇した。高市氏勝利の前に6─7割に高まっていた日銀の10月利上げ観測が3割弱へと大きく後退する中で、欧州での政治不安を嫌気したドル買いや、積み上がっていた投機筋の円買いポジションの巻き戻しが上昇に勢いをつけているとの見方が優勢だ。

オプション市場では、円の先安観も急速に高まっている。ドルの対円取引では「コール(買う権利)」から「プット(売る権利)」の需要を差し引いたリスク・リバーサル(RR)のマイナス幅が縮小、ドル・コールへの需要対比でプットへの需要が減少し、市場の思惑が円安に傾斜していることを示している。

RRの1カ月物25デルタをみると、足元ではマイナス0.15%へとマイナス幅を縮小。介入前にプラス転換した2022年9月以来の水準となっている。選挙前の3日はマイナス0.7%付近で推移していたが、急速にマイナス幅を縮めている。

1カ月物のRRがニュートラルに近づきつつあることについて、SMBC日興証券の為替・外債ストラテジスト、丸山凜途氏は、オプションを用いた輸出企業の円高ヘッジ需要が大きい日本での「構造的な円高警戒感を吹き飛ばすほど、円安に対する警戒感が高まっている」ことの表れとの見方を示す。

<キャリー本格化はまだ、目先155円上限か>

急速な円安進行は金利差をねらった動きとの観測もぶり返しつつある。「相対的に金利の低い通貨が売られるキャリートレードのような動きがある」(国内銀の為替セールス担当者)との指摘も聞かれる。

ただ、そうした動きはまだ本格化しているとはみられていない。キャリー取引の妙味が高まるにはボラティリティーの低下が鍵となるが、ドル/円の1カ月物インプライド・ボラティリティーは約9.7%と、選挙前の8.6%から上昇している。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフ為替ストラテジストの植野大作氏は、足元の円安はキャリー取引による円ショートの増加というよりも「円の先安観の高まりを背景に、高市トレードでの通貨変動で得られる売買差益を狙った円のショート増加」である可能性が高いとみている。

政治空白や日銀の利上げへの動きが鈍ることを投機筋が「見透かすような動き」と、SBIFXトレードの上田真理人取締役はみている。首班指名の日程は固まっておらず、組閣にもまだ間があるなど、足元は新政権発足の過程にある。石破茂政権は実質的に影響力を失ったレームダック状態にあるとの見方もあり、政府・日銀は為替介入に動きにくいとの思惑も、市場の一部からは聞かれる。

7日には加藤勝信財務相から「為替市場における過度な変動や無秩序な動きについてしっかり見極めていく」といったけん制めいたコメントが伝わったが、市場の反応は限定的だった。上田氏は「以前ならもう少し強めか、頻度高めに口先介入していただろう」とみている。

SMBC日興の丸山凜途氏はドル155円を超えると口先介入の強度が上がるとして、その水準が目先1週間のドル/円の上限との見方を示す。今後は財務省と日銀、金融庁による三者会談の開催なども想定される。三菱UFJモルガン・スタンレー証の植野氏は、前回介入に動いた160円超より手前の水準で実弾を投入する可能性は低いとしている。

ロイター
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