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歴史は繰り返す!?...トランプ「報復スイッチ」発動、揺らぐFBIの行方

Trump’s targeting of ‘enemies’ like James Comey echoes FBI’s dark history of mass surveillance, dirty tricks and perversion of justice under J. Edgar Hoover

2025年9月29日(月)16時17分
ベティ・メッドスガー(サンフランシスコ州立大学名誉教授、FBIの秘密作戦を暴露したジャーナリスト)
トランプ政権下で標的となったジェームズ・コミー元FBI長官

コミーは在任中、16年大統領選のロシア介入疑惑を調べていた(今年5月) MICHAEL M. SANTIAGO/GETTY IMAGES

<選挙戦で「敵への報復」を公言したトランプ米大統領が、その約束を実行に移している。司法省は標的リストを整え、元FBI長官ジェームズ・コミーの起訴に踏み切った。FBI内部では解雇が相次ぎ、独立性は揺らぐ>

トランプ米大統領は昨年の大統領選中、「敵」に対する報復を誓った。そして今、この宣言を実行に移している。

司法省は、トランプが敵と見なす人物を列挙した長大な捜査対象リストを作成。9月25日には、最大の標的の1人だったジェームズ・コミー元FBI長官を大陪審が起訴した。

数日前に未経験のままトランプによって検察官に任命された、トランプの元顧問弁護士の指示によるものだ。

コミーの古巣のFBIではカッシュ・パテル長官が政治的粛清を続けている。既にトランプの犯罪疑惑や2021年1月の連邦議会議事堂侵入事件の参加者を捜査した幹部職員や捜査官数千人が解雇された。

フーバーの亡霊、FBIはどこへ

FBIが政敵と見なした大量の人物を攻撃するのは、J・エドガー・フーバーが48年間も長官の座に君臨していた時代以来。トランプの最近の感情的な言動からは、法執行機関に報復の実行を強く期待していることがうかがえる。

バージニア州東部地区のエリック・シーバート連邦検事が、トランプが敵と見なすコミーとニューヨーク州司法長官のレティシャ・ジェームズを起訴するには証拠が不十分だと判断すると、トランプは激怒。9月19日、「辞めさせたい」と記者団に語った。シーバートは辞任したが、トランプは解雇だと主張した。

トランプの報復要求の直前には、側近のスティーブン・ミラー大統領次席補佐官が保守系活動家チャーリー・カーク暗殺事件に関連して、「巨大な国内テロ運動」の左翼を「あらゆる手段」を用いて起訴すると明言している。

パテルはFBI長官として、司法省とホワイトハウスが作り出した「敵」の捜査を指揮することになる。今やFBIの独立性は失われ、ホワイトハウスの実質的な下部組織になってしまった。

FBI長官が政敵の権利を侵害しようとしたのは今回が初めてではない。1972年の死去まで長官の座にあったフーバーはFBI内部の秘密組織を操り、自身の政治的見解に反対する人々や組織への攻撃に使っていた。

フーバーの秘密組織は71年、「FBIを調査する市民委員会」という団体がFBI事務所から書類を盗み出したことで発覚した。公開された書類は、FBIによる反対派の抑圧と秘密組織の存在、フーバーの驚くべき犯罪を暴露した。

「コインテルプロ」と呼ばれた秘密作戦は極めて大規模なもので、FBIの核心的使命である法執行能力を損なうまでになっていた。ベトナム戦争への疑問を口にする者は誰であれ監視下に置かれ、民主党のウィリアム・フルブライト上院議員も監視対象になった。

これを受けて、アメリカ国民の間からFBIの捜査と改革を求める声が高まった。それまでFBIを監視する仕組みは存在せず、報道も称賛記事を除けばほとんどなかった。

トランプ政権下のFBIが今後どうなるかは予断を許さない。連邦議会議事堂侵入事件の参加者に対する恩赦が示すように、大統領が無法行為や暴力に寛容な姿勢を見せている現状ではなおさらだ。

解雇されたFBI職員が最近起こした裁判の記録によると、パテルは担当事件を理由に捜査官を解雇するのは「おそらく違法」だが、トランプの要求には抵抗できないと原告の1人に語ったという。

トランプとミラーの言動から判断する限り、FBIの独立性も、政権は法に忠実であるべきという憲法上の要請も、彼らには無意味なようだ。フーバーと同様、彼らは反対意見を犯罪視している。

The Conversation

Betty Medsger, Professor Emeritus of Journalism, San Francisco State University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.



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