最新記事
暴力

チャーリー・カーク殺害事件、薬莢に刻まれたゲーム的記号の意味

Charlie Kirk shooting suspect had ties to gaming culture and the ‘dark internet’. Here’s how they radicalise

2025年9月18日(木)17時07分
マシュー・シャープ(オーストラリア・カトリック大学哲学准教授)
タイラー・ロビンソン容疑者

ビデオ中継でユタ郡治安裁判所に初出廷した拘置所のタイラー・ロビンソン容疑者(9月16日) Utah State Courts/Handout via REUTERS THIS IMAGE HAS BEEN SUPPLIED BY A THIRD PARTY

<アメリカで起きた右派活動家の銃撃事件で、過激思想の温床としてのゲーム文化に再び注目が集まっている>

アメリカのユタ州で右派活動家チャーリー・カークを射殺した疑いで逮捕された容疑者タイラー・ロビンソン(22)は、現在、ユタ郡の拘置所に勾留されているが、地元警察の取り調べには応じていないと報じられている。

事件の動機は明らかになっていないが、ユタ州のスペンサー・コックス知事は、ロビンソンの「ゲーミング」との関係に言及している。

現場に残された薬莢には、ゲーム文化を連想させる複数の文言が刻まれていた。

「Notices bulges, OwO what's this(膨らみに気づいた、OwOこれは何?)」という一文は、ロールプレイを通じて動物キャラクターになりきる人々「ファーリー」に関連する。

「よう、ファシスト!受け取れ! ↑ → ↓↓↓」という文言は、シューティングゲーム『ヘルダイバー2』の操作コマンドを模したものと見られる。ファシズムを風刺したゲーム世界でプレイヤーが兵士として戦うゲームだ。

さらに「O Bella ciao, Bella ciao, Bella ciao, Ciao, ciao!(オ・ベッラ・チャオ...)」というフレーズも見つかっている。これは第二次大戦中のイタリアの反ファシズムの歌で、シューティングゲーム『ファークライ6』にも登場する。

ほかに「if you read this you are gay LMAO(これを読んだらお前はゲイ、笑)」という同性愛差別的な言葉もあった。

ゲーム空間で過激化する若者たち

容疑者の思想的背景については現段階で断定できないものの、ゲーム文化を通じた過激化という問題は、過去の事件でも繰り返し指摘されてきた。

仮にロビンソンがゲーム文化やその周辺のオンライン空間で過激化したのだとすれば、これが初めてではない。ニュージーランドのクライストチャーチ、ドイツのハレ、ノルウェーのベルム、アメリカのバッファロー、エルパソ、パウェイなどで起きた銃撃事件はいずれも、陰謀論と暴力的ゲームに染まった若者による犯行だった。

ちなみにクライストチャーチやバッファローなど過去の複数の銃撃事件では、一人称視点(FPS)のゲームのような視点で犯行をライブ配信していた。今回の事件では、ライブ配信の有無は確認されていない。

過激派がリクルートに暗躍

2024年時点で、世界のビデオゲーム市場は約3,000億ドル(約45兆円)規模に達すると見込まれている。プレイヤーの数は30億人を超え、その多くが18〜34歳の若年層だ。

脆弱な立場にある若者も多く、過激派は早くから彼らをリクルートの対象と見なしてきた。

アメリカのネオナチ指導者、マット・ヘイルは2002年、リクルートに際しては「ゲームやエンターテインメントを通じて『我々は隣人であり味方だ』と感じさせろ」と発言している。

その後、極右団体は「民族浄化」「ZOG(シオニスト支配政府)の悪夢」といった人種差別的ゲームを独自に制作。白人種を守るという設定のもと、イスラム教徒、移民、性的マイノリティ、ユダヤ人などが敵として描かれている。

近年では環境保護や反ファシズムを掲げる一部の左派グループが、同様にネットを利用して若者を引き込むケースも報告されている。

ゲーム自体より「空間」が問題

カーク銃撃事件は、「暴力的なゲームと現実の暴力との関連」という古くからの議論を再燃させている。

だが、近年の研究では、過激化はゲームプレイそのものではなく、ゲーム内のチャットや音声チャンネルなど「コミュニケーション空間」を通じて進行することが示されている。

2020年、筆者らが世界最大級のPC向けゲーム配信プラットフォーム「スチーム」に投稿された900万件以上のデータを分析したところ、チャットやボイス機能を通じて政治的勧誘が行われている実態が明らかになった。

若者はゲーマーに人気のSNS「ディスコード」などの閉ざされたサーバーに誘導され、ミームや画像の共有、音声・ビデオ通話を通じて継続的に接触を受けるケースもある。

標的となった若者の具体的な不満や不安(恋愛や承認欲求の欠如、就職、住居、性役割など)を逆手に取った、巧妙なリクルートが行われることもある。

「自嘲ネタ」や「政治的に不適切」なミーム(例:カエルのペペ)は、グループの一体感を高め、敵対者(「フェミニスト」「リベラル」「ファシスト」など)への差別や侮辱を正当化する。

皮肉やブラックユーモアが「冗談」として機能しつつ、実際には過激思想への足がかりになっていく構造がある。最終的に、それらの思想は「陰謀的なエリート」が世界を操っているという世界観に収束し、それを止める唯一の手段は「極端な行動」だと説かれる。

そして最後に問われるのは、「行動に出る覚悟があるのは誰か」だ。

現実世界での対応が必要

オーストラリア連邦警察や議会も、ゲーム空間における過激化の脅威を認識している。孤立や精神疾患が蔓延する中、過激派はそうした弱者に巧みに接近してくる。

さらに、SNSのアルゴリズムはより刺激的なコンテンツへとユーザーを誘導する傾向があり、過激派にとっては格好の武器となっている。

現在、ゲームを通じた過激化を防止する団体も増えており、保護者や教育関係者向けの情報提供も行っている。

だが最も重要なのは、現実世界で若者と向き合い、ゲームやオンライン体験について率直な対話を重ねていくことだ。リアルな会話こそが、オンラインの危険から彼らを守る最も有効な手段になり得る。

The Conversation

Matthew Sharpe, Associate Professor in Philosophy, Australian Catholic University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.


ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


ヘルスケア
腸内環境の解析技術「PMAS」で、「健康寿命の延伸」につなげる...日韓タッグで健康づくりに革命を
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ大統領、ベネズエラとの戦争否定せず NBC

ビジネス

独経済回復、来年は低調なスタートに=連銀

ビジネス

ニデック、永守氏が19日付で代表取締役を辞任 名誉

ビジネス

ドル157円台へ上昇、1カ月ぶり高値 円が広範にじ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 7
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中