「観光地」から「移住地」へ...スタートアップも集うドバイが「住みたい街」になった理由【note限定公開記事】
DUBAI’S PLAN TO WOO YOU

ドバイのビーチでディナーを楽しむカップル DUBAI DEPARTMENT OF ECONOMY AND TOURISM
<かつては「きらびやかな観光地」として知られたドバイ。だが今、都市は「経由地」から「目的地」、そしてスタートアップと富裕層を惹きつける「移住先」へと変貌しつつある>
イランとイスラエルの戦争に、ようやく停戦の見通しがついた頃のこと。まだ中東の地図には、「渡航禁止」を意味する赤く塗られた地域が広がっていた。
ところがアラブ首長国連邦(UAE)のドバイ観光当局は、いつものように楽観的。もっと多くの観光客や移住者を呼び込めるという彼らの展望に何ら影響はなかったようだ。中東という不安定な地域で安定した旅行経由地であり投資先だったドバイは、今や目的地として人気を集めるようになった。
「中東のことにあまり詳しくない国や地域では、ニュースの報じられ方によって人々の印象が左右され、市場として影響を受けることがある」と、ドバイ観光・商業マーケティング公社のイサム・アブドゥルラヒム・カジムCEOは本誌のインタビューで語った。
「だからこそ私たちは、常に世界全体に目を向けている。そうすれば、ある市場で成長の鈍化、またはその兆しが見えても、すぐにほかの市場に焦点を切り替えて全体の成長を維持できる」
きっと誰もが、ドバイへの旅行や投資を誘う広告を目にしたことがあるだろう。これはドバイ当局が戦略的に行っているものだ。
人口がUAEの中で群を抜いて最大の都市となったドバイは、2023〜33年に経済規模を倍増させるという目標の下、一層の成長を目指している。
既にドバイは年間の外国人観光客の数で都市別の世界トップ 10に入っており、昨年は約1872万人が訪れた。「滞在期間を延ばし、消費を増やし、GDPを押し上げる影響を拡大し、リピーターを増やしたい」と、カジムは次々と数字を挙げながら語った。
「ドバイへの訪問を考えていない人たちも、私たちのキャンペーンで関心を持ってもらいたい。まず、ドバイを経由地に選んでくれればいい。(トランジットの)ほんの数時間の滞在でも構わない。空港の外に出て、街の魅力を少しでも味わってくれれば、もっと時間が欲しかったと感じてもらえるはずだ。そして、また来ようと思ってくれればうれしい」
旅の拠点としてのドバイの役割は、急速な経済成長の原動力になった。背景には、世界最多の国際線旅客数を誇る空港の存在がある。
昨年、ドバイ国際空港の利用者は約9230万人と過去最多に達した(米アトランタ国際空港に次いで世界第2位)。しかしカジムは欧米とアジアの間を旅行する際の経由地というイメージから脱却し、あくまで目的地として見てもらうことを目指している。
これまでドバイが主要な「顧客」と考えてきたのは、サウジアラビアやイギリス、インドといった国の人々だった。それが今ではヨーロッパ、アジア、中央アジア、アメリカ大陸と広範な地域を市場として想定している。
いまドバイに4時間以内のフライトで行ける人は世界人口の3分の1、8時間以内だと3分の2に達すると、カジムは言う。
「もちろん、トランジットやストップオーバーの拠点の役割も引き続き大切にしている。でも今では、ドバイを選んで訪れる人やリピーターが明らかに増えている」と、彼は言う。
ショッピングやエンターテインメントを目的に訪れる都市としては、ロンドンやパリ、ニューヨークに並ぶとドバイは売り込んでいる。北半球の冬に訪れるビーチリゾートとしては、タイやモルディブと競うとされている。
治安のよさが差別化要因に
ドバイの目標は、世界一高いブルジュ・ハリファなどの高層ビルや、きらびやかなショッピングモールに来てもらうことだけではない。
「旅行者の一人一人に合わせてアピールする必要があると思う」と、カジムは語る。「ショッピングを楽しみたい人もいれば、ビーチへ行きたい人もいる。グルメに関心がある人もいれば、ともかく安全・安心を第一に考える人もいる」
世界最大級の生活情報サイト「ヌンベオ」の最新のランキングで、ドバイはまたも世界で3番目に安全な都市と評価された(1位はUAEの首都アブダビで、ドバイから車で1時間半ほどの距離だ)。
これまでもドバイは、治安のよさと安全を売りにしてきた。この点は、中東地域ではことのほか強力な差別化要因になっている。
ドバイの人口はこの 15年足らずで2倍に増加し、現在は約400万人に達している。約90 %は外国からの移住者だ。都市は砂漠に向けて拡大している一方で、干拓により海に向けても拡大を続けている。
来訪者と住民が増えるのに伴ってインフラへの負荷が増しているが、問題の解決は進んでいると、カジムは語る。
ドバイはスタートアップ企業のように運営されていて意思決定のスピードが速く、道路や地下鉄、空港の建設など、あらゆることが素早く決まるというのだ。
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【note限定公開記事】「観光地」から「移住地」へ...スタートアップも集うドバイが「住みたい街」になった理由
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