大胆奇襲「クモの巣作戦」──ロシアの戦略爆撃機を壊滅させた1年半の計画

Ukraine’s Daring Raid

2025年6月10日(火)18時01分
フランツシュテファン・ガディ(英国際戦略研究所研究員)

ウクライナのゼレンスキー大統領と保安庁のマリュク長官

ウクライナのゼレンスキー大統領と保安庁のマリュク長官(6月1日公開) UKRAINIAN PRESIDENTIAL PRESS SERVICEーREUTERS

そして決行の時を迎えると、トラックの屋根が開きドローンが標的に向けて飛び立った。4GLTE高速データ通信や自動操縦ソフトウエアのアルジュパイロットなど、商用技術とオープンソースの技術が用いられた。

ドローンは各機に専属の操縦士がいて、作戦の指令部はロシア国内の連邦保安局(FSB)事務所の近辺に置かれた。一部のドローンは通信が途絶えても事前に設定されたルートで飛行を継続し、攻撃目標を識別して爆弾を自動で起動したという。


もっとも、作戦の複雑さ、創造的な手法、大胆さにもかかわらず、ロシアの軍事行動に即座に与える影響は限定的だろう。

ロシアは通常、1回の巡航ミサイル攻撃に7~11機の爆撃機を投入しており、運用可能な長距離爆撃機約100機のうち十数機を失っても、ウクライナの都市に対する巡航ミサイル攻撃が直ちに止まることはなさそうだ。

ロシアが爆撃機の攻撃に現在より依存していた2024年なら、影響はもっと深刻だっただろう。当時のウクライナはアメリカの支援に今以上に依存していた。ロシアの核抑止力に関わる標的の攻撃にアメリカが懸念を示していたため、こうした作戦に慎重になったのかもしれない。

とはいえ、今回の奇襲作戦がロシアに与えた長期的な影響を過小評価してはならない。Tu95とTu22M爆撃機は量産体制が終了しており、長距離からの戦力展開能力は低下するだろう。

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