最新記事
憲法

「大統領になろうとしたのは間違いだった」 誰も残れない韓国大統領制、憲法改正への期待高まる

2025年5月3日(土)20時25分
佐々木和義

議員内閣制への移行を求める声も

米国をはじめとする再任制大統領は1期目の成果が再任を左右する。成果が認められると続投できるが、成果がないか、まして本人や側近が問題を起こすと再任はありえない。再任は政治力に加えてモラルも問われるが、単任制の韓国大統領は良くも悪しくも1回きりだ。また施策の多くは定着するまで時間がかかるが、任期後半の施策等は、国民に定着する前に大統領が変わることになる。政権政党が交代すると方針が180度変わり、破棄になる施策が少なくない。

少数意見として、議員内閣制を提唱する人もいる。日本や英国などが採用している議員内閣制は韓国大統領制の対極といえるだろう。韓国大統領は憲法により国家元首とされ、行政権と軍の統帥権も大統領に帰属する。司法の長の任免権や国会が議決した法律案の再議を求める権限も有し、すなわち立法、行政、司法、軍事の4権のすべてに関与する強大な権限があるうえ、途中解任は容易ではない。

一方、議員内閣制を採用する日本の首相は進退はもとより施策についても国会の承認が原則で、国会で不信任が可決されると辞職するか衆議院を解散して国民の真意を問うかいずれかだ。日本憲政史上、任期満了に伴う衆議院総選挙は1度しかなく、議院内閣制は不安定という意見もある。

人気投票に陥りやすい大統領制

国民の意に添わない首相が誕生することがある日本と違い、国民の直接選挙で選出される大統領は国民の意向を反映する反面、人気投票に陥りやすい。直近30年の日本の総理大臣14人中、十分な閣僚経験を有していないのは村山富市と鳩山由紀夫の2人だが、就任前に1年以上の閣僚経験を持つ韓国大統領は崔圭夏が唯一だ。政治経験や資質に関係なく選挙時の人気によって強大な権力を握るのだ。

大統領制を変更するためには憲法の改正が必要で、国会在籍議員3分の2以上が改憲案を承認した後、国民投票で是非を問うとされている。実際、戒厳令とその後の大統領罷免という流れを受けて、4月7日禹元植(ウ・ウォンシク)国会議長が大統領選と憲法改正の国民投票の同時実施を提議した。ただ、これについては議院内閣制への改憲を主張する国民の力を利すると警戒した共に民主党から反対の声が多く、立ち消えになってしまった。このため6月3日に実施される大統領選で国民投票が実施されることはなく、憲法改正の議論は次期大統領に委ねられることになるだろう。

ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:失言や違法捜査、米司法省でミス連鎖 トラ

ワールド

アングル:反攻強めるミャンマー国軍、徴兵制やドロー

ビジネス

NY外為市場=円急落、日銀が追加利上げ明確に示さず

ビジネス

米国株式市場=続伸、ハイテク株高が消費関連の下落を
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 5
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 6
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中