「カナダのトランプ」が失速した原因は本家トランプ？

しかしトランプの一連の言動で状況は変わった。今のカナダ国民はトランプのアメリカよりも、その被害者の側に親近感を抱いている。

そもそもアメリカは、中国との貿易赤字を減らす上でもカナダを必要としている。電気自動車の蓄電池に使うリチウムやニッケルから半導体製造に必須のガリウムに至るまで、カナダには豊富な鉱物資源と立派な精製施設がある。

トランプに対抗できる指導者として期待されるカーニー新首相（中央）　CHRISTOPHER KATSAROV LUNAｰBLOOMBERG/GETTY IMAGES

現時点でも、カナダはこうした鉱物資源のアメリカに対する最大の輸出国だ。中国からの輸入を減らしたいなら、それに代わる安定した供給源はカナダしかない。

この事実を理解しているからこそ、自由党はトランプ関税への報復として鉱物資源の輸出制限をほのめかしていた。

トランプ関税の真意がカナダ側から流入するフェンタニル（米国内で押収される総量の0.2％にすぎない）の阻止や、カナダとの貿易赤字（たかが600億ドル程度にすぎない）の縮小にあるとしても、それくらいならトランプがポワリエーブルに内々に圧力をかけるだけで実現できたはずだ。

そうすればトランプは、カナダ国民の反発を買うことなく、次の総選挙で保守党を勝たせることができただろう。そしてポワリエーブル率いる新政権は（アメリカの要求に屈したのではなく）自らの政策としてフェンタニル対策の強化を打ち出し、貿易関係の改善にも取り組めたはずだ。